〜認知度3割の新制度、5万円の過料を避けるために〜
以前、収益不動産をご所有のお客様から「引っ越したんだけど、ぶっちゃけ所有不動産の登記(権利部)の住所部分って変更したほうが良いの?」――という質問を受けたことがあります。同じような疑問を持つオーナー様は多いのではないでしょうか?
そんな中、2026年4月1日住所等変更登記の義務化がひっそりと始まっています。怠れば5万円以下の過料。それなのに、法務省による調査では認知度がおよそ3割にとどまるとの結果も。さて、これは他人事でしょうか。本記事では、既に開始されているのに認知度が限りなく低い本制度の中身・必要書類・自分で申請する方法までを、現場のリアルを交えて整理します。
この記事で分かること
- 住所等変更登記の義務化はいつから始まったのか、なぜ導入されたのか
- 申請を怠った場合の過料リスクと、対象者・期限
- 必要書類・申請書の書き方・自分で申請する方法と司法書士報酬の目安

住所等変更登記の義務化とは|2026年4月から始まった新制度
そもそも「住所等変更登記」とは何か
住所等変更登記とは、不動産登記簿に記載されている所有者の住所・氏名が、引っ越しや結婚・改姓などで変わったときに、それを最新の情報に書き換えるための登記です。
不動産登記簿は、いわばその土地・建物の「履歴書」のようなもの。所有者の住所が古いままだと、行政や金融機関、あるいは買主さん候補(不動産会社を含む)がその人にコンタクトを取りたいときに辿り着けません。
施行日は2026年4月1日|認知度は約3割の現状
施行は2026年4月1日。すでに開始されている制度です。
ところが、現場の感覚としては「ニュースで聞いた気がする」程度の方が多く、相続登記義務化(2024年4月施行)と比べても話題になりにくい印象があります。私自身、先日仲介の査定でお伺いした戸建てオーナー様に「住所等変更登記の義務化、ご存じでしたか?」と尋ねたところ、「相続のほうは聞いたけど、住所も?」と驚かれました。
ふと考えてみると、引っ越しや結婚は誰にでも起こりうる出来事。相続より圧倒的に「自分ごと」になる可能性が高い制度のはずです。にもかかわらず認知が広がらないのは、対象者が広すぎてかえって他人事に感じやすい――そんな構造があるのかもしれません。
相続登記義務化との違い
混同されがちですが、両者は別物です。
申請期限に違いがある点など、見落とされがちですので押さえておきましょう。
なぜ住所等変更登記が義務化されたのか
「所有者不明土地」問題が国土の23%に
国土交通省の調査(令和6年)によれば、所有者不明土地は国土全体のおよそ23%を占めるとされています。九州本島の面積を上回る規模です。これらは公共事業の用地買収や災害復旧、隣地トラブルの解決を阻む大きな要因になってきました。
原因として最も多いのは相続登記の未了ですが、次いで多いのが住所変更登記の未了。引っ越しを繰り返すうちに登記簿上の住所と現住所が乖離し、書類が届かない、連絡が取れない、という事態が積み重なってきたのです。
登記簿と実態のズレが生む実害
私が現場で実際に経験したケースをひとつ。ある相続物件の売却仲介で、隣地との境界確認のために登記簿上の隣地所有者さんへ手紙を送ったところ、宛先不明で戻ってきました。住民票を辿っても4回引っ越されており、現住所の特定に数週間。境界立会いの日程は大幅にずれ込み、売却スケジュール全体が後ろにずれました。
こうしたズレが全国で積み重なれば、不動産取引の停滞、ひいては経済全体のロスにつながる──国がそう判断したのも頷けます。
義務化の対象者と申請期限
対象は不動産を所有するすべての人
対象は、土地・建物の登記名義人で、住所または氏名(法人の場合は名称・所在地)に変更があった方。マイホーム1軒であっても、投資用区分マンションであっても、底地・借地上の建物であっても、所有している不動産がある限り対象になります。
申請期限は「変更があった日から2年以内」
期限は、住所等の変更があった日から2年以内です。
ここで注意したいのが、2026年4月1日より前に住所変更していた方の取り扱い。経過措置として、施行日(2026年4月1日)から2年以内、つまり2028年3月31日までに申請すれば良いことになっています。「義務化前の引っ越しはセーフ」ではないので、ご注意を。
申請しないとどうなる?5万円以下の過料
正当な理由なく期限内に申請しない場合、5万円以下の過料が科される可能性があります。
ただし、いきなり過料が科されるわけではありません。法務局からまず催告がなされ、それでも申請しない場合に過料の対象となるのが通常の運用と見られています。とはいえ「催告が来てから動けば良い」と高を括るのは危険。催告が郵送されるのは登記簿上の旧住所宛てですから、住所変更を怠っている人ほど催告が手元に届かないという、ややブラックジョークのような構造があるのです。
住所等変更登記の必要書類と申請の流れ
必要書類一覧
ケースによりますが、一般的には次のような書類が必要です。
- 住民票の写し(住所変更の場合):現住所の記載があるもの
※法令上の有効期限はありませんが、実務上は取得から3か月以内のものを準備するのが無難です。 - 戸籍謄本+戸籍の附票(氏名変更の場合):改姓の経緯がわかるもの
- 登記申請書:法務局のホームページから様式をダウンロード可能
- 本人確認書類(運転免許証等のコピー、住民票の写しだけで代用できる場合あり)
- 登録免許税:不動産1個につき1,000円
たとえば土地と建物を所有するご自宅の場合、登録免許税は2,000円です(土地1,000円+建物1,000円)。マンションの場合も、専有部分(建物)1個につき1,000円、敷地権1個につき1,000円で、合計2,000円となるのが一般的です。
※具体的な必要書類や登録免許税額は、不動産の登記内容や管轄法務局によって異なる場合があります。正確な情報は管轄の法務局にご確認ください。
申請書の書き方
申請書は法務局のホームページ(不動産登記の申請書様式)から入手できます。記入項目は、不動産の表示、変更前後の住所(または氏名)、申請人の氏名・現住所、登録免許税額など。
「不動産の表示」欄は、お手元の登記識別情報通知(権利証)や固定資産税の課税明細書を見ながら、地番・家屋番号を正確に書き写すのがポイントです。住所と地番は一致しないことが多く、ここを間違えると補正の連絡が入ります。
申請方法は3通り|窓口・郵送・オンライン
申請方法は次の3つから選べます。
- 窓口申請:管轄の法務局へ直接持参。その場で軽い質問もできます
- 郵送申請:書留などで管轄法務局へ郵送
- オンライン申請:登記・供託オンライン申請システムから
初めての方には、軽く窓口で相談しながら出すのが安心です。私の経験上、法務局の登記相談窓口は予約制のところも多いので、事前に管轄の法務局へ電話確認するとスムーズです。
自分で申請する vs 司法書士に依頼する
自分で申請する場合のコストと手間
自分で申請する場合、実費は概ね以下のとおりです(戸建て・土地建物1個ずつのケース)。
- 住民票発行手数料:約300円
- 登録免許税:2,000円(土地1,000円+建物1,000円)
- 郵送費・交通費:1,000円程度
合計でおよそ3,000円台で完結します。
書類取得・申請書作成・提出までトータルで、不慣れな方でも実働半日〜1日程度が目安。「平日に役所と法務局を回るのが難しい」という方以外は、十分に自分で対応できる手続きです。上記の法務局のホームページには、申請書のほかに書き方の見本もありますので、比較的容易に書類の準備が可能です。
司法書士に依頼する場合の報酬相場
司法書士へ依頼すると、報酬は概ね 1万円〜2万円程度+実費が相場感です(不動産の個数や事務所によって変動)。
「自分で申請すれば数千円で済むのに、なぜ依頼する人がいるのか?」と感じるかもしれません。実のところ、依頼が向いているのは次のようなケースです。
- 所有不動産が多数(投資用に複数所有しているなど)
- 法人名義で本店移転を伴う
- 過去に複数回引っ越しを繰り返しており、住民票で経緯が追えない
- 平日に役所・法務局へ出向く時間が取れない
「自分でやる派」「依頼する派」の分かれ目
私が現場でご相談を受ける際、判断の目安としてお伝えしているのは「時間単価で考えてみてください」ということ。
平日休みが取りにくい方が、有給を半日使って自分で申請するくらいなら、1万円台で外注したほうが合理的なケースもあります。一方、定年退職後で時間に余裕がある方なら、自分でやってみるのも良い経験になるかもしれません。
申請忘れを防ぐ新制度|「スマート変更登記」と検索用情報の申出
申し出れば法務局が自動で更新してくれる
今回の法改正には、義務化と同時にもうひとつの目玉があります。それが「検索用情報の申出」に基づく職権登記です。
仕組みはこうです。すでに2025年4月21日から開始されている「検索用情報の申出」制度を利用し、あらかじめ法務局に氏名・住所・生年月日・メールアドレスなどの情報を申し出ておくと、法務局が住民基本台帳ネットワークと連携して住所変更を把握し、所有者本人の同意のうえで職権で住所変更登記をしてくれる(=スマート変更登記)、というもの。つまり、一度申し出ておけば、その後の引っ越しは自分で登記申請しなくても済む。これはなかなか画期的な仕組みです。
直近の引っ越しが既に発生してしまっている方は、その変更分については自分で申請する必要があります。ただし、いま申出をしておけば、以降の住所等の変更は自動で反映されるようになります。
すべての所有者が使える?対象と制約
ただし、いくつか制約があります。
- 申出は、不動産登記の所有権の登記名義人本人が行う必要がある
- 個人が対象(法人は別途、商業登記との連携による職権登記制度あり)
- 申出後も、住基ネットで把握できない情報(外国居住者等)は対象外
すでに不動産を所有している方も、今後新たに購入する方も、この検索用情報の申出をしておくことが、最も実用的な「義務化対応」になると私は考えています。
既存所有者が申出をする場合のポイント
- 押印・電子署名は不要
- 専用のソフトウェアを利用することなく、Webブラウザ上で手続が可能(かんたん登記申請の利用が可能)
- 必要な添付書面は、多くの場合、身分証明書(運転免許証、個人番号カード等)の写しのみ
- 登録免許税等の費用がかからない
まとめ
面倒な制度こそ、早めの一手を
- 2026年4月1日から住所等変更登記は義務化されており、認知度は約3割と低い状況
- 期限は変更から2年以内、怠ると5万円以下の過料の可能性あり
- 自分で申請すれば実費3,000円台、司法書士依頼なら1〜2万円が相場
- 「検索用情報の申出」をしておけば、将来の引っ越しは自動で職権登記される
ふと振り返れば、不動産の変更登記は「やらなくても今すぐ困らない手続き」の代表格でした。だからこそ後回しにされ、結果として国土の23%が所有者不明という事態を招いた。今回の義務化は、ある意味その負債を私たち世代が清算するためのルール変更とも言えます。
新しいルールに戸惑う気持ちは、よくわかります。ですが、5万円の過料も、将来の売却時のトラブルも、数千円と半日の手間で防げるのです。引っ越しや結婚の予定がある方、過去に住所を変えたまま放置している方、いずれも、思い立った今日が動き出しのタイミングではないでしょうか。
ご不明点があれば、お気軽にご相談ください。
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