ここ2〜3年、都心の物件チラシを見ていると「定期借地権付き」という文字をよく目にするようになりました。私のところにも、「この物件、相場よりも安いと思うんですけど、買っても問題ないですか?」と相談に来られる方がいらっしゃいますが、よくよく物件資料の確認とお客様の話を聞くと、定期借地権付きであることを認識していなかったことは往々にしてあります。土地を「持たない」マンションは、所有権物件とは根本的にゲームのルールが違う商品です。安いという理由だけで飛びついて、10年後に「こんなはずじゃなかった」となるケースもあります。本記事では、実例と公的データなどを織り交ぜながら、購入判断の軸となる情報をまとめます。
この記事で分かること
- 定期借地権付きマンションが2025年に急増している背景と価格の安さの実態
- メリット・デメリットの全体像と、住宅ローンを組む際の具体的な制約
- 中古で買う場合・将来売却する場合の見極めポイント

定期借地権付きマンションとは?最近急増している理由
「土地は借りる、建物は買う」仕組みと契約期間
定期借地権付きマンションは、簡単に言えば「土地は地主から借り、建物だけを区分所有する」タイプの住宅です。借地借家法に基づく一般定期借地権が用いられ、契約期間は50年以上と定められています。所有権マンションとの一番の違いは、契約上のタイムリミットがあるという点。期間が満了すると建物を取り壊し、更地にして地主へ返還する義務が生じます。
私が担当した案件でも、お客様から「えっ、50年経ったら本当に出ないといけないんですか?」と何度も聞き返されたことがあります。法律で定められた約束事なので、ここはどう交渉しても覆りません。最近は契約期間を70年程度に設定する物件も増えており、品川や渋谷で供給された大規模物件には残存70年超のものも見られます。
2025年に首都圏供給が前年比3.7倍に急増した背景
地価高騰と都心の用地不足を背景に、定期借地権付きマンションの供給は急ピッチで増えています。不動産経済研究所の調査によると、2025年1〜6月の首都圏供給戸数は634戸(前年同期168戸)と、前年同期比で約3.7倍に膨らんでいます。私の肌感としても、ここ数年で「あれ、また新規分譲だ」というニュースが頻繁に飛び込んできて、明らかに潮目が変わったと感じます。
なぜ増えているのか。理由は「三方よし」の構造ができているからです。地主側は土地を手放さずに地代収入を得られ、満了後に土地が確実に返ってくる。デベロッパーは取得困難な都心の一等地で大規模開発が可能になる。購入者は所有権では到底手の届かない立地に、現実的な価格でアクセスできる。神社・学校法人・大手企業など、土地を絶対に売りたくない地主が「貸す」という選択肢に動き始めたのも大きな後押しでしょう。
価格相場|所有権マンションよりどれくらい安い?
国交省データでは「所有権の8割前後」が平均的なライン
定期借地権付きマンションの販売価格は、近隣の所有権物件と比べて2〜3割安い設定が一般的です。国土交通省の調査では、定借マンションの価格は所有権マンションの70〜80%未満に収まる物件が最も多く、全体の54%が80%未満。民間調査でも、新築時の周辺所有権相場比は平均76.9〜中央値80.2との数値が出ています。
ただし、ここで一つ注意があります。「2〜3割安いから単純にお得」とは言い切れないのです。理由はランニングコストにあります。
安く買える代わりに発生する「地代」と「解体準備金」
定期借地権マンションでは、毎月の地代と解体準備金(解体積立金)が発生します。地代の相場は、土地価格の年2〜3%程度。月額に直すと、都内の販売物件では月3,780円〜25,098円程度のレンジが見られます(中央値は月7,000円~10,000円程度)。解体準備金もこれとは別枠で、月2,140円〜26,420円くらいの実例があります。物件規模と残存期間で大きく振れるので、購入検討時は必ず物件ごとの具体額を確認してください。
実は私のところに相談に来られた40代のご夫婦も、当初「販売価格3割安いから即決します」と前のめりだったのですが、月々の地代と解体準備金を含めて30年シミュレーションしてみると、所有権物件との総額差はわずか500万円程度(販売価格の1割前後)。「これなら立地を諦めずに所有権の方を検討します」と方針転換されました。販売価格の安さだけで決めず、トータルコストで比較するクセを、ぜひ身につけてください。
定期借地権付きマンションを購入するメリット
同じ予算で「駅徒歩5分・3LDK」が現実的になる
最大のメリットは、所有権物件と同じ予算でより好立地・より広い住戸を選べる点です。具体例で言うと、都心の所有権タワーマンションが1億2,000万円前後で取引されるエリアでも、定期借地権付きなら7,000〜9,000万円台で同条件の住戸が手に入るケースがあります。
「予算8,000万円で駅徒歩15分・60㎡の所有権」か「同じ予算で駅徒歩5分・75㎡の定期借地権」か、ライフスタイルなどによって答えは変わりますが、選択肢が広がるのは間違いない事実。
固定資産税が建物分のみ|年5万円前後の節税効果
固定資産税・都市計画税は土地の所有者である地主が負担するため、マンション所有者の税負担は建物分のみに限定されます。70㎡都心物件のケースで試算すると、土地分の税金が年5〜7万円程度免除されるイメージです。
地代の支払いがあっても、この税軽減分でかなりの部分が相殺されることがあります。特に都心のように地価評価額が高いエリアほど、節税効果は大きくなります。
定期借地権付きマンションを購入するデメリット・注意点
「住み終わりが決まっている」という宿命
最大のデメリットは、契約期間満了時に建物を解体して土地を返還しなければならないことです。期間の延長や更新は法的に認められず、住み続ける選択肢そのものがありません。50年契約・300戸規模のマンションで解体費総額3億円程度と想定される試算もあり、将来的な価格高騰などの影響により積立不足の場合は1戸あたり数十万円の追加負担が発生する可能性も否定できません。
私の現場感覚では、子供や孫への相続を視野に入れている場合、定借は基本的にお勧めしていません。所有権マンションなら満了の概念がなく、立地が良ければ築40年・50年でも一定の資産価値を保てます。一方、定借は契約満了で建物解体・更地返還となるため、相続させる頃には残存期間が短くなり、資産価値もゼロに近づいているケースが多いです。「親から受け継いだマンションに自分の子供も住む」という三世代利用は、定借では構造的に成立しにくいと考えてください。
月々の固定費は所有権より重くなりやすい
定期借地権マンションのランニングコストは、所有権マンションよりも月額で5,000円〜1万円程度高くなります。地代と解体積立金が上乗せされるからです。地代は数年ごとに改定されるリスクがあり、人件費高騰などで解体費が増えれば積立金の追加徴収もあり得ます。
短中期で住むなら定借が有利、長期で住み続けるなら所有権が逆転しやすい、というのが実務感覚です。
「期限タイマー効果」で資産価値が急減速する
定期借地権マンションの資産価値推移は、所有権物件と全く異なるカーブを描きます。東京カンテイの調査によると、駅徒歩15分圏内の定借物件で次のような傾向が確認されています。
特に残存20年を切ると、後述する住宅ローンが組みにくくなる影響で買い手が激減します。経年劣化に加えて「住める期間」そのものが価値の源泉になっているため、毎年1年ずつ確実に価値が削れていく構造です。所有権物件のように、築古でも立地次第で価格を維持できるみたいな甘い期待は持たない方が無難でしょう。
定期借地権付きマンションは住宅ローンを組めるのか
借りられる金融機関は全体の3〜5割程度
定期借地権付きマンションの住宅ローンは、所有権物件よりも金融機関の選択肢が大幅に絞られます。メガバンク3行の中では、三菱UFJ銀行は定期借地権付きマンションへの住宅ローンを取り扱っていません。一方で、三井住友銀行は「WEB申込専用定借住宅ローン」という専用商品を提供しており、みずほ銀行も物件の個別評価で対応するケースがあります。とはいえ、所有権物件と比べると担保評価の保守性や残存期間の縛りが厳しく、審査ハードルは一段高くなります。
借りられる金融機関を整理すると、フラット35、三井住友銀行の定借専用ローン、みずほ銀行の個別評価、スルガ銀行、常陽銀行などの地銀・信託系が中心。逆に、三菱UFJ銀行とネット銀行の大半は対象外です。もちろん戦略次第ではありますが、定借物件への対応有無を考慮せず申し込んだ場合、実務感覚では「10行中3〜5行からOK」が出るイメージです。
私がお客様によくアドバイスするのは、新築なら分譲会社の提携ローン、中古ならフラット35+定借対応銀行2〜3行に並行で事前審査を出すこと。「メガバンクが通らなかった」と慌ててから動き始めると、購入機会を逃すリスクがあります。
残存期間が借入期間を縛る|残存40年なら35年ローンは可能か
住宅ローンの返済期間は、原則として残存借地期間の80〜100%が上限となります。残存40年の物件なら、フラット35では35年融資が通る可能性が高く、定借対応の地方銀行でも30〜35年が期待できます。
ただし注意点として、定借対応の銀行でも「残存期間ギリギリの借入期間」は通りにくく、「残存40年でも30年まで」と制限される事例もあります。残存30年の中古物件では借入24〜30年が上限となり、月々の返済額が一気に重くなるので注意が必要です。
中古で購入する場合・将来売却する場合のポイント
中古で買うときは「残存期間40年以上」が一つの目安
中古の定期借地権付きマンションを検討する際、最も重要な指標は残存期間の長さです。残存期間が短い物件は、住める期間が限定されるだけでなく、自分が将来売却する時にも大きな足かせとなります。
推奨は、残存期間40年以上の物件を選ぶこと。これは住宅ローンが組みやすい目安であり、将来の売却時にも次の買い手がローンを組める余地を残しておけるラインだからです。残存30年を切る物件は、価格が魅力的に映っても慎重に判断すべき。また、地主との関係性(過去のトラブル履歴、地代の改定ルール、譲渡承諾料の有無)も、契約書を取り寄せて事前にチェックしてください。内容の読み解きが難しければ、プロにご相談ください。
売却は残存期間で「20年の壁」を意識する
定期借地権付きマンションの売却は、残存期間が短くなるほど難しくなります。実務上の感覚値としては、次のような目安です。
| 残存期間 | 売却しやすさ | 価格影響(所有権比) |
|---|---|---|
| 30年以上 | 比較的良い | 20〜30%安 |
| 15〜30年 | 普通(価格次第) | 30〜50%安 |
| 10年未満 | 極めて難しい | 50%以上安・ゼロ近辺 |
特に残存20年を切るとローン利用がほぼ不可能となり、買い手は現金購入できる投資家や短期居住者に限定されます。価格面でも、満了が近づくにつれて資産価値はゼロへ向かって収束していきます。売却を視野に入れるのであれば、残存期間に十分な余裕があるうちに手放す出口戦略を、購入の段階から描いておくことが鉄則です。地主への譲渡承諾料が発生するケースもあるので、契約書の該当条項は必ず購入前に確認してください。
まとめ|定期借地権付きマンションが向いている人・向いていない人
定期借地権付きマンションは、「期限付きの利用権」を買う商品だと正しく理解できれば、選択肢として十分に魅力的です。一方で、所有権マンションと同じ感覚で買ってしまうと、ランニングコストや出口戦略でつまずきやすい商品でもあります。
向いている人は、初期費用を抑えて都心の好立地に住みたい人、資産として残すことよりも現役世代の利便性を重視する人、20〜30年先を見据えた住み替え計画が描けている人。向いていない人は、相続財産として確実に次世代へ残したい人、終の棲家として永住したい人、資産価値の長期維持を最優先する人です。
「販売価格が2〜3割安い」という表面的な数字に飛びつかず、地代・解体準備金・将来の売却価格まで含めたトータルコストで所有権物件と比較する。これが、後悔しないための最大のポイントです。ご自身の人生設計とこの商品の性格が噛み合うかどうか、ぜひ一度立ち止まって考えてみてください。判断に迷う場合は、専門家への相談も選択肢の一つです。お気軽にお問い合わせください。
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