「そろそろ家を売ろうか」と思い立ったとき、あなたは最初に何をしますか?
ネットで一括査定を申し込む。知人に不動産会社を紹介してもらう。とりあえず近所の不動産屋に飛び込む——どれもよくある行動パターンですが、実はどれも”2番目”にやるべきことです。最初の一手を間違えたことで、実質的に数百万円の損をした売主さんを私自身、何人も見てきました。ふと振り返ると、共通しているのは「相場を知らないまま動き出した」ということが原因だったのです。本記事では、売却の全体像から不動産会社選びの勘所、そして現場にいるからこそ語れる注意点まで、順を追ってお伝えします。
この記事で分かること
- 不動産売却の全体の流れと「何から」手をつけるべきか
- 査定・不動産会社選びで数百万円の差がつく理由
- 囲い込み・高預かりなど、業界の闇から身を守る方法
不動産売却は何から始める?全体の流れを解説
準備から引き渡しまで——売却の5ステップ
不動産売却には、おおまかに5つの段階があります。
まず物件の状態と権利関係を改めて確認する「事前準備」。次に不動産会社へ査定を依頼し、信頼できる会社と媒介契約を締結。そこから販売活動が始まり、買主さんが見つかれば売買契約、最後に残代金の決済と引き渡しです。売却益が出た場合は翌年の確定申告も忘れてはいけません。
非常に単純に見えますが、この5段階のどこかで判断を誤ると、不動産は価格の大きな商品のため、数百万円の差が生まれることがあるのです。例えば、不動産会社選定のところで、よく分からないまま一括査定サイトに申し込み、最初に連絡してきたところで専任媒介契約を結んでしまったことで、内覧数の低さや最終的な成約価格の低さに繋がった例はよく目にします。
まず最初にやるべきは「相場を知ること」
不動産会社に連絡する前に、自分自身で売却相場をある程度掴んでおくこと。これが鉄則です。
なぜか。相場を知らなければ、提示された査定価格が不当に高いのか安いのか判断できません。業者の言い値をそのまま信じて安く手放す人もいれば、根拠のない高値に飛びついて半年以上売れ残る人もいます。どちらのパターンも、事前に10分ほど相場を調べていれば防げたはずです。
「でも、素人が相場なんて分かるの?」と思うかもしれません。今や時代は令和。ネット上には沢山の成約情報が転がっています。具体的な方法は後述します。
不動産の査定方法と価格の考え方
机上査定と訪問査定——精度はまるで違う
査定には「机上査定」と「訪問査定」の2種類があります。
机上査定はデータだけで算出するので、早ければ当日に結果が届きます。一方、訪問査定は担当者が現地に足を運び、建物の劣化状況や日当たり、周辺の騒音環境まで確認したうえで価格を出します。精度の差は歴然です。
とはいえ、いきなり訪問査定を複数社に依頼すると、対応だけで週末が潰れます。まず机上査定で2〜3社の目安を把握し、売る意思が固まった段階で訪問査定へ進む。この二段構えが効率的でしょう。
「査定価格=売れる価格」ではない
ここは多くの売主さんが誤解するポイントです。
不動産会社が出す査定価格は「概ね3ヶ月で成約が見込める価格」の目安にすぎません。市場で実際にいくらで売れるかは、需要と供給、タイミング、物件の見せ方など無数の変数で動きます。
ここで1つのよくある例として、A社の査定が4,280万円、B社の査定が4,780万円で500万円も差があったとします。しかし、この物件の成約価格は4,350万円でした。すなわちB社の査定は、いわゆる「高預かり」——契約を取るための釣り価格だった可能性が高いのです。単純にB社の査定精度に問題がある可能性もありますが、、、査定額が高い=良い会社、ではないということは頭の片隅に入れておいてください!
自分で相場を調べる方法
さきほど、まずは自分自身で売却相場を調べましょうという話をしました。
公的な情報源を使えば、プロに頼らなくても相場の輪郭は見えてくるのです。
国土交通省の「不動産情報ライブラリ」では、実際に取引された不動産の価格情報を地域ごとに検索できます。ほかには、「レインズマーケットインフォメーション」。これは成約事例をもとにした平米単価や築年数別の傾向が把握できる便利なサイトです。
SUUMOやHOME’Sなどのポータルサイトで、いま売りに出ている類似物件の価格を見るのも有効ですが、注意点がひとつ。ポータルに載っている価格は「売り出し価格」であって「成約価格」ではありません。実際の取引価格は売り出し価格から5〜10%程度下がるケースが一般的です(最近はこの格差がもっと広がっています)。この差を意識しておくだけで、判断の精度はぐっと上がるでしょう。
不動産会社(仲介会社)の選び方
大手と地域密着、どちらが正解か
結論を先に言うと「どちらが上」ということはありません。
とりあえず大手に頼んでおけば安心と思ったそこのあなた、驚きました?
たしかに大手は広告予算とブランド力で広範囲に集客できます。でも、あなたの不動産を購入するのはひとりですよね?一方、地元の不動産会社はそのエリア特有の需要——たとえば「○○小学校の学区だから子育て世帯に人気」といった肌感覚の情報を持っている場合があります。あくまで私の経験則では、駅近のファミリーマンションなら大手、再建築不可や旗竿地のような”クセのある物件”なら地域密着型のほうが成約率は高い傾向にあると感じます。
大事なのは、1社に決め打ちしないこと。最低でも3社には査定を依頼し、各社の説明などを聞いたうえで比較してください。
媒介契約は3種類——あなたに合うのはどれ?
仲介を依頼するとき、売主さんは不動産会社と「媒介契約」を結びます。種類は3つ。
一般媒介契約は複数の会社に同時依頼(乱れうち)できる自由度がメリットです。ただし、各社にとっては「他社で決まるかもしれない案件」なので、広告費や人員の投下が手薄になりがちです。
専任媒介契約は1社のみと契約するため、不動産会社側の本気度が上がります。2週間に1回以上の活動報告義務もあり、進捗が見えやすいです。
専属専任媒介契約はさらに制約が強く、売主さん自身が見つけた買主さんとも、その不動産会社を通さなければ契約できません。活動報告義務の頻度もあがり、1週間に1回以上の報告義務が課されます。
どれを選ぶかは物件の性質と売主さんのスタンス次第ですが、初めての売却であれば専任媒介が無難でしょう。報告頻度と自由度のバランスが取れています。日本人特有の真ん中を選ぶ戦法ではないですよ。細かいところはまた別の記事で詳しく解説します!
信頼できる不動産会社を見極める3つの質問
私がいつも売主さんに勧めるのは、初回面談で次の3つを聞くことです。
「この査定価格の根拠を、取引事例を交えて説明してください」——曖昧な回答しか返ってこない会社は、そもそも調査が甘い。
「販売開始から成約まで、具体的にどんなスケジュールで動きますか」——戦略のない会社ほど「まず出してみましょう」としか言えません。
「過去1年で、このエリアで成約した件数を教えてください」——実績は嘘をつきません。
質問に対するレスポンスの速さ、物件の弱点にも正直に触れる誠実さ。そういった”人”の部分が、最終的な満足度を分けます。
不動産鑑定士の立場から言わせてもらうと、不動産の価格(査定価格)を出すのは簡単じゃないんです。なぜなら、不動産は物理的にも法的にも同じものは一つとしてないんです。それを意図も簡単に何の根拠もなく、査定価格を出してくる業者は信頼に値しませんよね?
不動産売却の注意点——知らないと損する3つの落とし穴
「囲い込み」という業界の闇
これは売主さんとして絶対に知っておくべき話です。
囲い込みとは、仲介会社が自社で買主さんも見つけて売主さん・買主さん双方から手数料を得る「両手取引」を狙い、他社からの問い合わせを意図的にブロックする行為です。電話で「商談中です」と嘘をつく。レインズへの登録を遅らせる。手口はさまざまですが、被害を受けるのは常に売主さんです。
なぜ売主さんが被害を受けるのかを具体的に説明しましょう。
例えば、6,000万円で売りに出していた物件があったとします。この売主さんは絶賛囲い込み中のとある業者に売却を依頼していました。この業者は自ら買主さんを見つけるべく、営業活動を行いますが、この業者が見つけた買主さん候補から提示された購入希望金額は5,500万円が最高でした。一方で、この物件を見た別の不動産会社がその不動産会社のお客様にこの物件を紹介したところ、大変気に入り、6,000万円満額の買付(購入希望)が提示されました。
しかし、絶賛囲い込み中の業者は6,000万円満額の買付を売主さんに出さず、5,500万円の自ら見つけた買主さん候補しか見つからなかったと売主さんに告げ、契約してしまうのです。結果、売主さんとしては500万円の損失を負ってることになりますよね?一方で、業者は5,500万円で成約しても売主さん・買主さん双方から手数料を貰えれば、売上は実質2倍近いのです。嘘のように聞こえるかもしれませんが、このようなことはよく行われてます。
自衛策はシンプルです。専任媒介や専属専任媒介を結んだ場合、レインズの登録証明書を必ず受け取ってください。そして、取引状況のステータスが「公開中」になっているかを自分の目で定期的に確認する。これは必ず行ってください。
「高預かり」の罠——査定額が高い業者は危ない?
さきほども触れましたが、改めて強調します。
複数社に査定を依頼すると、1社だけ飛び抜けて高い金額を出してくることがあります。売主さん
心理として「高く売ってくれそうだ」と飛びつきたくなる気持ちは分かります。しかし冷静に考えてみてください。相場より明らかに高い価格で売れる根拠が、その業者にだけあるのでしょうか。
ほとんどの場合、答えはノーです。高い査定で媒介契約を取り、売れない期間が続くと「市場が厳しいので値下げしましょう」と切り出してくる。これが高預かりの典型的なオチです。
不動産は「鮮度」が命です。魚と同じです。売り出し直後の2〜3週間がもっとも注目を集める時期であり、ここで反響が少なければ「何か問題がある物件では?」という印象が市場に広がってしまいます。最初の価格設定を誤ると、最終的に相場以下でしか売れなくなるリスクがある。これは脅しではなく、現場で繰り返し見てきた事実です。
費用と税金を事前に把握する
「4,000万円で売れた!」と喜んでも、手元に残るのはそこから諸費用と税金を引いた金額です。
具体的な費用項目などはまた別の記事で詳しく解説しますが、おおよそ諸費用については、トータルで物件価格の4~8%前後が相場です。
売却益が出た場合は譲渡所得税にも注意が必要です。ただし、マイホームであれば「居住用財産の3,000万円特別控除」が適用できる場合が多く、実際に課税されるケースは限定的でしょう。とはいえ、適用には確定申告が必須です。「売却したら終わり」ではなく、翌年3月の申告まで含めてスケジュールを組んでおくことをお勧めします。
不動産を高く売却するための成功のポイント
タイミングと価格戦略
不動産市場には季節性があります。一般的に、1月〜3月は新年度に向けた住み替え需要が高まり、成約件数が増える傾向にあります。このピークに売り出しを合わせるなら、前年の11〜12月には準備を始めたいところです。
価格戦略としては、相場の数%上乗せした価格で売り出し、買主さんからの値引き交渉に備えるのが実務上のセオリーです。ただし、上乗せ幅が大きすぎると問い合わせ自体が来ません。反響を見ながら柔軟に調整できるよう、スケジュールに余裕を持たせることが成功の分かれ道になります。
内覧で差がつく「見せ方」の工夫
内覧は、買主さんとの最初の”対面”です。第一印象がすべてと言っても過言ではありません。人間と同じですね。
特に効果が大きいのは水回りの清掃です。キッチン、浴室、トイレ。ここが清潔であれば、築年数が古くても「大事に住んでいたんだな」という安心感を与えます。逆に、リビングがどれだけ広くても、洗面台の水垢ひとつで印象は一変することもあります。
あと、もうひとつ。住み替えを検討中で、まだ売主さん自身の引っ越しなどが済んでいない場合、不要な家具や荷物は可能な限り減らしてください。部屋が広く見えるだけでなく、買主さんが「自分の家具を置いたらどうなるか」を想像しやすくなるからです。
住んでいるからこそ語れる情報も武器になります。「朝は東から光が入って気持ちいい」「スーパーは徒歩3分で、22時まで営業している」——こうした生活実感は、不動産会社のチラシには載っていないことがほとんどです。
仲介手数料は交渉できるのか?
法律上、仲介手数料には「上限」が定められているだけで、下限はありません。つまり、交渉の余地はあるということです。
ただし、ここは慎重に。手数料を大幅に値切った結果、広告掲載を減らされたり、担当者の優先度が下がったりすることがあります。100万円の手数料を80万円に下げてもらっても、成約価格が200万円下がったら本末転倒です。
手残り額を最大化するという視点で考えるなら、仲介手数料の値引きよりも、税制優遇のフル活用に注力するほうが効果的なケースが多い。3,000万円特別控除はもちろん、10年超の長期譲渡所得の軽減税率、買い替え特例など、条件によって使える制度は複数あります。税理士への相談費用をかけてでも、漏れなく適用を受ける価値はあるでしょう。
まとめ
不動産売却で後悔しないために、覚えておいてほしいことは3つです。
第一に、相場を知ってから動く。 自分で調べた相場感があれば、査定価格の妥当性を判断でき、高預かりにも引っかかりにくくなります。
第二に、不動産会社は比較して選ぶ。 1社だけで決めず、最低3社に査定を依頼する。そのうえで、価格の根拠・販売戦略・実績を比べてパートナーを決める。
第三に、囲い込みには自分で目を光らせる。 レインズの登録証明書を確認し、ステータスが「公開中」であることを定期的にチェックする。
売却は、人生でそう何度もない大きな取引です。だからこそ、不動産会社に任せきりにせず、自分自身が主導権を握ってください。この仕事をしていて、断言できることがあります——準備と知識に投じた時間は、必ず成約価格に反映されます。
あなたの売却が、納得のいくものになることを願っています!!
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