マンションは総戸数が多いほど得?管理費・修繕積立金・運営の違いを鑑定士が徹底検証

皆さんはマンションを選ぶとき、「総戸数」をどれくらい気にしていますか?
なんとなく、「戸数が多いほうが、管理費や修繕積立金を大勢で割れるから負担が軽くて安心。」くらいで考えていませんか?
不動産会社などのいろいろな情報源で言われていることでもあるため、その感覚を持てていることは悪くないですし、よく勉強されているなと思います。ただ実はデータを丁寧に見ていくと「戸数が多いほど得」という単純な話ではなく、負担が軽くなる範囲と逆に重くなる場面の両方が見えてきます。
今日は国土交通省の調査や法令をもとに、総戸数の違いがコストと管理組合の運営にどう効いてくるのかをお伝えしていきます。

大規模な集合住宅の外観

先に結論:マンションの総戸数は「多いほど得」か。答えは半分だけ正しい

世間の常識は、データでも確かめられる

まず世間の常識は、間違いではありません。国土交通省の令和5年度マンション総合調査(管理組合向け、回答1,589組合)でも、月・戸あたりの管理費は総戸数規模が大きくなるほど低くなる傾向にあるとされています。ただ、⁠細かく見ると次の3点が分かりました。

  • 安くなるのはおおむね30戸以下から抜け出すところまで:専有面積1㎡あたりの管理費と修繕積立金の合計は、30戸以下が突出して高く、75戸あたりから先はほぼ横ばいです。
  • 「戸あたり」で比べると差が大きく見えすぎる:住戸の広さの違いが混ざるためです。㎡あたりで比べると差は約3割から約2割に縮みます。
  • 大規模にはコスト以外の別の顔がある:役員が回ってくる頻度は下がりますが、理事会の負担や総会の出席率、共用施設の維持など小規模とは違う特徴が出てきます。

なお資産価値や売りやすさへの影響は、この記事では扱いません。総戸数と価格の関係を示す信頼できる公的な統計が確認できなかったため、推測で書くのを避けました。

コスト:何戸から安くなるのか、70㎡で試算する

「戸あたり」の比較には落とし穴がある

同調査によると月・戸あたりの管理費(駐車場使用料等からの充当額を除く)は、20戸以下で14,282円、301〜500戸で10,002円です。約3割の差に見えます。ところが、⁠これを専有面積1㎡あたりに直すと176円と142円で差は約2割です。戸あたりの比較には住戸の広さの違いも混ざっているためです。マンションの負担は、広さに応じて決まる面が大きいので、比べるなら㎡あたりのほうが正確です。

30戸以下は割高。75戸あたりから先は、ほぼ横ばい

㎡あたりの管理費(駐車場使用料等からの充当額を除く)と、修繕積立金の現在の額を総戸数の規模別に並べたものが、次の図です。

総戸数別の管理費と修繕積立金の㎡単価

20戸以下は合計で月389円/㎡、21〜30戸は383円/㎡と突出しています。31〜75戸では330〜340円/㎡前後まで下がり、76戸から500戸まではおおむね294〜337円/㎡の範囲に収まっていて、規模が大きくなるほど安くなる、という関係ははっきりしません。

分かりやすいように、専有面積70㎡の住戸で毎月の負担を試算してみました(調査の回答数で加重平均した、筆者の試算です)。30戸以下は月約2.69万円、31〜75戸は約2.35万円、76〜200戸は約2.29万円、201〜500戸は約2.27万円です。30戸以下と31〜500戸の差は月3,500〜4,300円、年4〜5万円、35年で150〜180万円程度になります。確かに小さなマンションは割高です。ただし規模を大きくしても、ある程度から先は負担がそれ以上下がりにくいというのが数字の示すところです。

小規模が割高になる理由はエレベーターや消防設備の点検、清掃、共用部分の維持管理といった費用が、戸数に比例しては減らないためだと考えられます。将来の修繕費でも、⁠同じ傾向が見えます。長期修繕計画に基づく総修繕工事費を戸あたりで見ると平均は全体で約644万円、20戸以下で約796万円、301〜500戸で約520万円です(計画期間は組合ごとに異なります)。小さなマンションほど、1戸あたりの将来負担が重い傾向は、ここでも確認できます。

国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)も同じ方向です。20階未満のマンションの修繕積立金の平均額の目安は延床面積5,000㎡未満が335円/㎡・月、5,000〜10,000㎡が252円/㎡・月、10,000〜20,000㎡が271円/㎡・月、20,000㎡以上が255円/㎡・月です。専有70㎡の住戸が並ぶ場合、延床5,000㎡は、共用部分を含む延床が専有面積の1.2〜1.3倍と仮定すると55〜60戸前後です(筆者の概算)。

小規模は割高で中規模から先は横ばい、という形は、調査の数字とも一致しています。つまり、⁠世間で言われる「戸数が多いほど負担が軽くなる」効果は本当にありますが、効くのは小規模から中規模に上がるところまでという見方ができるのです。

500戸超や20階以上では、また上がる

ここで前の図をもう一度見てください。501戸以上は、⁠管理費が約165円/㎡で、301〜500戸の約142円/㎡から上がっています。ガイドラインでも、⁠20階以上のマンションの目安は338円/㎡・月と、5,000㎡未満の335円/㎡・月とほぼ同じ水準です。超高層は外壁修繕のための特殊な足場が必要になるほか、共用部分の占める割合が高くなるため、修繕工事費が増える傾向があると説明されています。

管理費についても、⁠大規模マンションには、小規模のそれにはない共用施設があります。後ほど詳しく触れますが、調査では集会室は501戸以上の94%、ゲストルームは49%にあります。こうした施設の維持費が、管理費を押し上げる要因になり得ると考えられます。固定費を大勢で割れる効果と共用施設などで固定費そのものが増える効果が、綱引きをしている、というイメージです。なお501戸以上は回答が35組合と少なく、あくまで参考値としてご覧ください。

運営:役員が回ってくる頻度が、まるで違う

小規模は役員の番が早く、大規模は役員の番が遠い

同じ調査の「役員の平均人数」を使うと、役員1人あたりの戸数を範囲で計算できます。20戸以下は役員が平均3.8人、501戸以上は21.6人です。たとえば、⁠21〜30戸は役員1人あたり5〜7戸、101〜150戸は12〜18戸、301〜500戸は19〜31戸、501戸以上は23戸以上になります(各区分の下限・上限の戸数で計算した、筆者の概算です)。単純に考えると小規模では、5〜7戸に1戸が役員になるわけですから任期1年の輪番なら、数年に1度は順番が来ます。

大規模では20〜30戸に1戸ですから、なかなか回ってきません。実際、役員の選び方を見ても、「順番」で選ぶ割合は20戸以下で74.7%、501戸以上で58.8%です。大規模は立候補(76.5%)や抽選(26.5%)を組み合わせて決めています。

ただし、大規模は理事会が重く、総会は「行く人」が少ない

ただ、⁠役員が回ってこないから楽、とは言い切れません。理事会を「月に1回程度」開いている割合は20戸以下で13.9%、101〜150戸で63.1%、501戸以上で97.1%です。大規模ではほぼ毎月、理事会が開かれます。役員の任期も20戸以下は1年が64.6%ですが、501戸以上は2年が79.4%です。さらに役員を半数ずつ入れ替える「半数改選」の割合も、20戸以下は16.5%、501戸以上は73.5%です。大規模は、⁠引き継ぎをしながら運営を続ける仕組みを整えている、とも読めます。

当たったときの負担は、大規模のほうが重い、と言えるでしょう。小規模は、⁠頻繁に順番が来る代わりに理事会の回数が少なく、1回あたりの負担は軽めです。

一方、⁠総会はどうでしょうか。委任状や議決権行使書を出した人を除いた、実際の出席割合の平均は20戸以下が44.5%、76〜100戸が20.8%、501戸以上が9.3%です(全体では24.6%)。大規模ほど、⁠総会に足を運ぶ人は少なくなります。

総戸数別の運営の姿

2026年4月から、決議の取り方が変わった

実は、⁠この「出席が少ない」問題には、法律が手当てをしています。令和7年(2025年)5月30日に公布され、令和8年(2026年)4月1日に施行された区分所有法の改正で共用部分の変更などの決議は「区分所有者と議決権の各過半数が出席し、その出席者の4分の3以上の賛成」で決められるようになりました(区分所有法17条。e-Gov法令検索の現行条文で確認)。従来は区分所有者と議決権の各4分の3以上という全体を基準にした要件でしたので、出席率が低い大規模ほど賛成を集めるのが大変でした。

また所在が分からない区分所有者を、裁判所の裁判で決議から除外できる制度(38条の2)も設けられています。この改正は規模の大きいマンションの運営を、やりやすくする方向に働くと考えられます。

暮らし:共用施設、滞納、トラブルの本当の見方

大規模には、小規模にはない共用施設がある

国土交通省の調査では集会室がある割合は20戸以下で7.1%、51〜75戸で55.0%、101〜150戸で80.7%、301〜500戸で96.5%と規模とともに上がります。ゲストルームは201〜300戸で33.3%、501戸以上で48.6%、24時間ごみ出し可能な設備は20戸以下の20.0%に対し、501戸以上は65.7%です。住む側にとっては便利で暮らしの質が上がる施設です。その分、⁠維持費や修繕費がかかる、という点は先ほどのとおりです。

滞納は、大規模のほうが「ある」割合が高い。でも、⁠影響は逆

管理費や修繕積立金を3か月以上滞納している住戸が「ある」と答えた割合は20戸以下が10.6%、51〜75戸が25.4%、301〜500戸が61.4%、501戸以上が68.6%です。一見、⁠大規模のほうが危ないようですが、そう単純ではありません。501戸以上で滞納があった24組合のうち、滞納住戸が全体の1%以下の組合が18組合を占め、残りも2%以下でした。一方、⁠20戸以下で滞納があった9組合のうち、8組合は滞納住戸が全体の5%を超えています。

20戸のマンションでは、1戸が滞納するだけで、滞納住戸の割合が5%になるからです。人数が多いと誰かが滞納する確率は上がりますが、1戸あたりの影響は小さくなる、という仕組みです。

トラブルが多いのは、管理が悪いからとは限らない

同じ傾向はトラブルにも出ています。「居住者間の行為、⁠マナーをめぐるもの」が発生している割合は20戸以下で31.8%、101〜150戸で75.2%、501戸以上で88.6%です。「特にトラブルは発生していない」は、20戸以下の31.8%に対し、501戸以上は0%でした(35組合中)。住む人が増えれば、⁠それだけ人間関係の接点も増えます。トラブルの件数だけで管理の良し悪しを判断するのは、早計です。むしろ大規模では弁護士を活用している割合が501戸以上で62.9%に達するなど、専門家の力を借りて対処しているマンションが多い、という側面もあります。

鑑定士の視点:評価で見られるのは、戸数ではなく「管理の質」

不動産鑑定評価基準が、区分所有建物で挙げている要因

ここで不動産鑑定の話を一つ。不動産鑑定評価基準は区分所有建物及びその敷地における固有の個別的要因として、建物の維持管理の状態、玄関・集会室等の施設の状態、居住者等の構成の状態、そして長期修繕計画の有無及びその良否並びに修繕積立金の額などを例示しています。専有部分に係る要因としては、区分所有者の管理費等の滞納の有無も挙げています。総戸数そのものは、⁠例示の中に入っていません。つまり、⁠鑑定の現場では、「何戸あるか」より「ちゃんと管理されているか」を見るわけです。

これはデータとも整合します。長期修繕計画が「ある」割合は20戸以下で76.5%、501戸以上で97.1%(全体は88.4%)と規模で差がありますが、小規模でも、計画をきちんと立てている管理組合はたくさんあります。逆に大規模でも、積立金が不足していたり、計画が古いままだったりする例はあり得ます。規模は傾向を示すだけで個別の管理の質を保証するものではないのです。

購入前に確認したい5つの資料

戸数にかかわらず、⁠購入前に次の資料は確認しておきたいところです。

  • 長期修繕計画書:計画期間(30年以上が目安とされます)、直近の見直し時期、修繕積立金の将来の増額予定を確認する。
  • 修繕積立金の残高と段階増額の有無:今の額が安くても、将来、大きく上がる設計になっていないか確認する。
  • 総会議事録(直近2〜3年分):出席状況や、紛糾している議題がないか確認する。
  • 管理規約・使用細則:共用施設の使用ルール、専用使用料、ペットや民泊の扱いを確認する。
  • 管理費・修繕積立金の滞納状況:滞納が多くないか、不動産会社を通じて確認する。

まとめ:規模別・おすすめのタイプ

ここまでの内容を総戸数の規模別に整理したものが、次の評価表です。

マンションの総戸数が多い場合と少ない場合の評価表

まとめ

総戸数は、「多いほどいい」ではなく「30戸の壁」と「大規模の別の顔」で見る

管理費と修繕積立金は、30戸以下が割高で76戸あたりから先は、ほぼ横ばいです。70㎡の住戸で比べると30戸以下は、31〜500戸より、月3,500〜4,300円ほど高くなります。大規模は役員が回ってきにくく、共用施設も充実しますが、理事会は月1回が当たり前で総会に足を運ぶ人は少なくなります。30戸以下を選ぶなら長期修繕計画と積立金の水準を、76〜500戸を選ぶなら共用施設の維持費や理事会の実情(どのように理事を決定するかまで)を入念に確認してください。あなたは毎月のコストと運営への関わり方のどちらを重視したいでしょうか。まずは候補の物件の長期修繕計画書と、総会議事録を取り寄せてみてはいかがでしょうか。

※本記事の内容は国土交通省「令和5年度マンション総合調査」(管理組合向け、回答1,589組合)、
同「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)、
建物の区分所有等に関する法律(e-Gov法令検索)、不動産鑑定評価基準をもとに作成しています。
㎡あたりの金額、⁠役員1人あたりの戸数、70㎡換算の負担額は調査の公表値をもとに筆者が計算した試算・概算です。修繕積立金は現在の徴収額であり、将来の増額は含みません。501戸以上は回答が少なく、参考値です。個別の物件については宅建業者・管理会社等の専門家にご確認ください。


冨田隼平

WRITER冨田 隼平
不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士ほか
大手信託銀行にて不動産売買仲介、その後業界最大手の鑑定会社にて不動産鑑定評価業務に従事。
現在は独立し、鑑定士として価格調査・鑑定評価・コンサルティングを提供するほか、エージェントとして売買・賃貸のサポートなども行っています。

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