「父が亡くなって、もう4年くらい経つんですけど…実家の名義がまだそのままで」。先日、ご相談いただいた60代のお客様が仰った一言です。義務化のニュースは耳にしていたものの、何から手を付ければいいか分からず、気付けば期限まで残り少なくなっていた——。同じような状況の方、本当に多いんですよね。2024年4月にスタートした相続登記の義務化は、過去の相続も例外なく巻き込みます。タイムリミットは2027年3月31日。本記事では事例も交えながら、いま動き出すべき理由と、具体的な進め方をお伝えします。
この記事で分かること
- 相続登記義務化の制度概要と「いつまでに」登記すべきか
- 違反した場合の罰則(10万円以下の過料)の中身
- 2024年4月以前に発生した過去の相続も対象になる理由
- 自分で手続きする場合の必要書類・費用・流れ

相続登記の義務化とは|2024年4月から何が変わったのか
「やってもやらなくてもよかった時代」は終わった
つい数年前まで、相続登記は完全に任意でした。期限もなければ罰則もなく、登記を放置していてもお咎めなし。実際、実務で数え切れないくらいの登記簿を取得してますが、そこに記載されている所有者の方はすでに亡くなられている——なんてケースがすごく多いです。
2024年3月31日までは、登記する・しないは個人の判断に委ねられていたわけです。売却や融資の予定がない限り、わざわざ手間とお金をかけて名義を変える人は少数派でした。
ところが、この「ゆるさ」が大きな副作用を生みました。
九州の面積に匹敵する「所有者不明土地」
「所有者不明土地」という言葉、ニュースで聞いたことがある方も多いでしょう。登記簿を見ても、現在の本当の持ち主が分からない土地——これが日本全国で約410万ヘクタール、つまり九州の面積を上回る規模にまで膨れ上がっていると言われています(国土交通省調べ)。
公共事業の用地買収が進まない、災害復旧のときに連絡先が分からない、空き家が朽ち果てて近隣に迷惑をかける。こうした問題の根っこに、相続登記が放置されてきた構造的な事情がありました。
立地が良い空き地などについては、「あの土地が欲しいんですが、所有者さんに連絡をとることはできますか?」とご相談を受けることもあるのですが、登記簿をみると100年以上前から所有者が変わっておらず、現在の所有者探しに苦戦する、最悪の場合見つからないなんてことは往々にしてあります。
義務化で押さえるべき3つの変化
制度が変わったポイントを、シンプルに3つだけ整理します。
- 取得を知った日から3年以内に登記の申請が義務付けられた
- 正当な理由なく怠ると 10万円以下の過料 が科される可能性がある
- 2024年4月以前の過去の相続も対象となり、遡って義務化の射程に入った
3つ目が、実は一番厄介です。「うちは法改正のずっと前に親父が亡くなったから関係ない」と思い込んでいる方が、本当に多い。違うんです、関係あるんです。
期限はいつまで?「3年」の数え方には落とし穴がある
原則は「相続を知った日から3年以内」
法律上の起算点は、「自分が相続人であることを知り、かつ、その不動産を取得したことを知った日」。多くのケースでは被相続人が亡くなった日と一致しますが、これが厳密にはズレることもあります。
たとえば、疎遠だった伯父の死亡を1年後に知った——というケース。3年のカウントは「亡くなった日」ではなく「知った日」から始まります。逆に言えば、「知らなかった」と主張すれば永久に期限が来ない、ということではありません。客観的に知り得たかどうかも判断材料になりますから、油断は禁物です。
遺産分割が成立した場合の特則
相続人同士の話し合い(遺産分割協議)でようやく不動産の引受人が決まった場合は、協議成立日から3年以内に登記する義務が新たに発生します。
ここはちょっと複雑なので整理しましょう。
- 相続発生から3年以内に協議がまとまる場合 → まとまった時点で速やかに登記
- 3年以内に協議がまとまらない場合 → 後述の「相続人申告登記」で一旦義務を果たす
→ その後で協議が成立 → 成立日から改めて3年以内に正式登記
二段構えになっているのが、この制度のミソです。分割協議は3年以内にまとまらないこともあるので、どちらのケースについても理解しておく必要があります。
期限に間に合わないときの救済策——相続人申告登記
「相続人が10人もいて、そもそも全員と連絡が取れない」「協議が泥沼化して何年も決着しない」。こうした事情を法律も想定しています。新設されたのが、相続人申告登記という簡易制度です。
これは、自分が相続人の一人であることを法務局へ申し出るだけの手続きで、単独で行えます。費用も時間もごく軽微(戸籍謄本などの実費のみ)。これさえやっておけば、義務違反による過料は回避できる仕組みになっています。
ただし——この登記は名義を完全に変更するものではないため、そのままでは売却や担保設定はできません。あくまで「期限までに遺産分割がまとまらない場合の救済策(ペナルティ回避)」としての制度です。最終的に協議がまとまった暁には、売却などの前に正式な相続登記が改めて必要になることを、忘れずに頭の片隅に置いておいてください。
罰則の中身——「10万円の過料」は本当に来るのか
過料は刑事罰ではない、でも記録は残る
「10万円の過料」と聞くと、ドキッとしますよね。ただ、これは刑事罰ではなく行政罰です。前科にはなりません。それでも、放置に対するペナルティとして無視できない金額であることは確かです。
不動産1件ごとに判断されるため、複数の物件を抱えている場合は理論上、合計額が膨らむリスクもあります。
「正当な理由」が認められるケース、認められないケース
実務上、いきなり過料が飛んでくることはまず考えにくい。法務局からの催告(督促)を受けてもなお応じない場合に、過料の手続きが進む運用と聞いています。
正当な理由として認められやすいのは——
- 相続人が極めて多数で、戸籍収集に時間がかかっている
- 遺産分割について裁判で係争中
- 重病・経済的困窮など、客観的に手続きが困難な事情
逆に、「忙しかった」「忘れていた」「面倒だった」は、まず通用しないと考えるべきでしょう。
罰則よりも怖い、現場で見てきた「もう一つのリスク」
正直に言うと、私は10万円の過料そのものよりも、登記を放置したことで売買が止まる事態のほうがずっと深刻だと思っています。
とある業者から聞いた話で、こんなことがありました。専任媒介をいただいたお客様は売却を急いでいたのですが、登記名義が亡くなったお父様のまま。「すぐ売れるよね?」と聞かれて確認したところ、実は祖父名義のまま放置されていた区画もあり、相続人を特定するだけで4ヶ月かかったそうです。買い手は途中で別の物件に流れていきました。
放置のもう一つの怖さは、二次相続による相続人の爆発的増加です。
たとえば、ご両親の代で兄弟3人だった相続人が、お一人ずつ亡くなって次の代になると——そのお子さんたちが相続人になる。10人、15人、面識のない遠い親戚まで含めて遺産分割協議をしなければならない。実印と印鑑証明を集めるだけで、もう一年仕事です。
時間が経てば経つほど、戸籍の保存期間切れ、相続人の認知症、海外移住、行方不明……障害物が増えていきます。先送りに、メリットは一つもありません。
過去の相続も対象——「うちはもう何十年も前だから」が一番危ない
法改正前の相続も例外なく対象
ここ、本当に大事なところです。2024年4月1日より前に発生していた相続で、まだ登記が済んでいないものは、すべて義務化の射程に入ります。
「お祖父さまが昭和に亡くなった土地」「平成初期に父から引き継いだ実家」——年代を問わず、現在未登記なら対象です。法改正以前の出来事だから関係ない、という解釈は完全な誤解。これだけは絶対に押さえてください。
期限は「2027年3月31日」——あと1年を切っている
過去の相続分の期限は、義務化スタート(2024年4月)から3年後の2027年3月31日と定められています。本記事を書いている時点で、残された猶予はおよそ10か月。
期限直前は、法務局の窓口も司法書士事務所も、間違いなく混雑します。私の知り合いの司法書士も「今まさに、依頼が雪崩のように来ている」と話していました。早く動いた人ほど、落ち着いて手続きができます。
祖父・曽祖父名義のままになっている土地は、いま手を打つべき
エリアなどによっては、戦前から続く一軒家や地主さんが代々持ち続けている小さな空地が、いまだに古い名義のまま残っているケースに出会います。
明治・大正の名義のままだと、戸籍を遡るだけで数十通、相続人は10人を超えるなんてザラ。司法書士への報酬も、簡単な案件の倍以上に膨らみます。
「いつか売ろうと思っている」「子供に残すつもり」——そう考えているのなら、いま動くのが最も安く、最も確実です。世代を経るごとに、整理は不可能に近づいていきます。
自分でできる?相続登記の必要書類・費用・流れを実務目線で
自分でやるか、司法書士に頼むかの判断軸
「ネットで調べたら自分でもできるって書いてあった」とおっしゃる方、よくいらっしゃいます。確かに、条件次第では十分可能です。
自分でやるのに向いているケース:
- 相続人が1〜2名で、全員と連絡が取れる
- 不動産が1件だけ、しかも被相続人名義のまま(祖父名義などではない)
- 平日に法務局や役所に行く時間が取れる
- 書類不備などで何度か往復することにストレスを感じない
逆に、司法書士に任せたほうがいいケース:
- 相続人が3名以上、または高齢者・遠方居住者がいる
- 数代前の名義が混在している
- 物件が複数、複数地域にまたがる
- 仕事を休めない、急いで売却したい
報酬5〜15万円を「高い」と見るか「適正」と見るかは、その人の時間単価次第です。私は仕事柄たくさんの司法書士の先生方とお付き合いしていますが、複雑案件で自力にこだわって失敗するくらいなら、最初からプロに任せたほうが結果的に安く済むケースが多い印象です。
必要書類の一覧——意外と多いと感じるかもしれません
基本的に必要となる書類は次の通りです。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍・改製原戸籍を含む)
- 相続人全員の戸籍謄本および住民票
- 不動産を取得する人の住民票
- 遺産分割協議書(相続人全員の実印と印鑑証明書を添付)
- 固定資産評価証明書または納税通知書
- 登記申請書
「連続した戸籍」と書きましたが、これがクセモノで、本籍が何度も移転している方の場合、本籍地ごとに役所へ請求しなければなりません。郵送で請求して1〜2週間、それを何往復か——気がつくと2ヶ月経っている、という光景は想像に難くないでしょう。
費用の目安——登録免許税の計算式から逆算する
費用は大きく3つに分かれます。
① 登録免許税(必須)
- 計算式(土地に対する免税がない場合):固定資産評価額 × 0.4%
- 算出方法:固定資産税納税通知書、または役所で取得した固定資産評価証明書の評価額を確認
- 例:評価額1,500万円の土地建物 → 1,500万円 × 0.004 = 6万円
② 書類取得の実費
- 戸籍謄本1通あたり450円〜750円
- 印鑑証明書1通あたり300円程度
- 相続人や本籍地の数によりますが、おおむね5,000円〜1.5万円
③ 司法書士報酬(依頼する場合)
- 一般的な相場は5〜15万円、平均で7〜8万円程度
- 物件数、相続人数、書類収集の難易度で変動
評価額3,000万円の物件を相続人3名・1物件で司法書士に依頼すると、登録免許税12万円+実費1万円+報酬8万円=約21万円が大まかな着地点になります。
相続登記をしなかった場合の過料(10万円以下)のほうが安いから放置で良いだろと思うかもしれませんが、過料を納めたあとの相続登記手続きで上記金額がかかるので過料は余計な出費ですよね…この記事を読んだ皆さんには、将来的な売却時などのことまで考慮して、早めの手続きをお願いしたいです。
手続きの流れ——書類収集から完了通知まで
実際の進め方を、私の現場感覚も交えて並べます。
- 不動産の特定:法務局で登記事項証明書を取得し、現状の名義を確認。並行して市区町村役場で名寄帳を取り、被相続人名義の物件を漏れなく洗い出す
- 相続人の確定:被相続人の出生から死亡までの戸籍を取り寄せ、相続関係説明図を作成
- 遺産分割協議:誰が何を引き継ぐかを話し合い、協議書を作成
- 必要書類の収集:相続人全員の戸籍・住民票・印鑑証明書を揃える
- 登記申請書の作成:法務局のひな型を活用、登録免許税分の収入印紙を貼付
- 法務局へ提出:管轄の法務局へ窓口・郵送・オンラインで申請(書類不備があると補正のため何度か往復することも)
- 完了通知の受領:審査期間は約1〜2週間(通常時)、登記識別情報通知(権利証に相当)を受け取って完了
この6番、書類不備が出やすいんです。お客様の自力申請に同行した経験でも、戸籍の文字が読み取れず追加提出を求められた、住所のつながりが証明できないなど——細かいトラブルが頻発します。「2回程度往復する前提」で計画を立てておくと、精神的に楽でしょう。
まとめ
先送りに、ひとつもメリットはない
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。最後に要点を整理します。
- 2024年4月から相続登記は義務化、不動産取得を知った日から3年以内の申請が必要
- 違反すると 10万円以下の過料 が科される可能性、ただし正当な理由があれば免除も
- 過去の相続も対象。多くのケースで猶予期限は 2027年3月31日まで
- 自力申請も可能だが、相続人多数・数代前の名義などは司法書士への依頼が現実的
現場で複数の相続案件に触れてきて、強く感じるのは「動き出した瞬間に、お客様の表情が明らかに軽くなる」という事実です。重たい荷物を背負い続けるより、一歩踏み出したほうが、きっと楽になります。
未登記の不動産が気になっている方、まずは登記事項証明書を1通取り寄せてみるところから始めてみませんか。それだけでも、現状把握という意味で大きな前進です。どのエリアでも構いませんので、相続物件のご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
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