ハザードマップで確認すべきことは?不動産購入前に見るべき5つのポイントと落とし穴を鑑定士が解説

皆さんは、⁠家を買う前にハザードマップで確認すべきことを、ちゃんと理解できていますか?なんとなく、「不動産会社が重要事項説明で見せてくれたし、色も付いていなかったから大丈夫。」くらいで考えていませんか?無理もないと思います。2020年8月から、契約前に、ハザードマップ上の物件の所在地を説明することが、宅建業者に義務づけられましたから。ただ実は、⁠その説明で義務づけられているのは「物件の位置を地図上で示すこと」が中心で、浸水の深さや避難の仕方まで、読み解いてくれるとは限らないんです。
今日は、⁠購入前にハザードマップで確認すべき5つのポイントと、見落としがちな落とし穴を、公的資料をもとに整理していきます。

ハザードマップで確認すべき、川沿いの市街地の様子

先に結論:ハザードマップで確認すべき「5つのポイント」

5つのポイントは、「種類・深さ・長さ・逃げ方・新しさ」

結論から言うと、⁠ハザードマップで確認すべきことは、次の5つです。

  • 一つ目:どの災害のマップか。洪水、内水、高潮、土砂災害、津波は、それぞれ別の地図です。
  • 二つ目:浸水の深さはどれくらいか。0.5m、3m、5mが、一つの目安です。
  • 三つ目:浸水はどれくらい続くか、家が壊れる区域か。
    浸水継続時間と、家屋倒壊等氾濫想定区域です。
  • 四つ目:逃げられるか。避難所、避難経路、そして「早期の立退き避難が必要な区域」かどうかです。
  • 五つ目:その情報は新しいか。地図の作成時期と、過去の被害、地形も合わせて見ます。

これらを確認する際に、特に大切なのが、不動産会社(宅建業者)の説明だけで終わらせないことです。次の章で、⁠その理由を説明します。

不動産会社の説明だけで、終わらせてはいけない理由

重要事項説明で義務なのは、「所在地を地図上で示す」こと

宅地建物取引業法施行規則(16条の4の3)により、令和2年(2020年)8月28日から、水防法に基づいて市町村が提供する水害ハザードマップ上の、物件の所在地を、重要事項として説明する義務が加わりました。対象は、⁠洪水、雨水出水(内水)、高潮の3種類です。あわせて、⁠物件が土砂災害警戒区域や津波災害警戒区域などの内にあるときも、その旨を説明します。

国土交通省のQ&Aによれば、説明の内容は「ハザードマップを提示しながら、概ねの位置を示すこと」です。近隣の避難所の位置を示すことは、「義務ではないが望ましい」とされています。また、⁠ため池ハザードマップや、浸水実績図の説明は、義務の対象外です。つまり、⁠法律上の説明は、マップを見せて場所を示すところまでで、浸水の深さの読み方や、避難の方法まで、説明を受けられるとは限りません。

ハザードマップで確認すべき災害の種類と、重要事項説明の対象の一覧

説明を受けても、約3人に1人は「気に留めなかった・覚えていない」

国土交通政策研究所の調査(2025年1月、5都市の戸建て購入者)では、2020年以降に住宅を購入した508人に、重要事項説明での水災害リスクの情報提供の影響を聞いています。「事前に危険性を認識していたので、購入には影響しなかった」が43.7%、「説明で初めて危険性を認識した」が15.4%でした。一方、⁠「説明を受けたが特に気に留めなかった」が10.6%、「説明があったか覚えていない」が23.8%で、合計34.4%にのぼります。

説明は、⁠受けただけでは意味がありません。契約前に、⁠自分で見て、理解しておくことが大切です。

ハザードマップで確認すべきことを購入者はどれくらい確認しているかの調査結果

賃貸でも、同じ説明が必要になる

この説明義務は、⁠売買だけでなく、賃貸にも適用されます。宅地建物取引業法施行規則16条の4の3は、宅地・建物の貸借の契約についても、水害ハザードマップ上の所在地を説明事項としています。借りる側も、⁠「賃貸だから関係ない」とは考えず、物件の位置を確認しておきましょう。

地図の読み方:浸水深・継続時間・避難の3つを見る

浸水深は、0.5m・3m・5mを目安に読む

国土交通省の「水害ハザードマップ作成の手引き」は、浸水深を、20m、10m、5m、3m、0.5mを境界とした6段階で、色分けすることを標準としています。これらの閾値は、⁠一般的な家屋の2階が水没する5m、2階の床下に相当する3m、1階の床高に相当する0.5mを、目安にしたものです。

つまり、⁠0.5mを超えると、床上浸水のおそれがあり、3mを超えると、2階にも水が届く可能性があるという目安になります。自分が買おうとしている家が、何階建ての戸建てなのか、マンションなら何階なのかで、同じ色でも、意味が変わります。

ハザードマップで確認すべき浸水深の色分けと、家屋への影響の目安

「想定最大規模」とは、どんな雨のことか

現在のハザードマップの浸水想定は、「想定最大規模降雨」を前提にしています。水防法14条は、⁠想定し得る最大規模の降雨で河川が氾濫した場合に、浸水が想定される区域を、洪水浸水想定区域として指定すると定めています。従来の計画規模の降雨を上回る、かなり極端な雨が、前提になっているわけです。ですから、⁠そのとおりに起こる可能性は高くありませんが、「最悪の場合に、どうなるか」を示した地図だと、理解しておきましょう。

浸水継続時間と、家屋倒壊等氾濫想定区域も見る

浸水の深さだけでなく、水が引くまでの時間も重要です。手引きは、⁠浸水が長く続き、生活に大きな支障が出る区域を、地図上に「浸水継続時間が長い区域」として記載することが望ましいとしています。また、⁠堤防決壊に伴う激しい氾濫流や、河岸の侵食によって、家屋の倒壊や流失のおそれがある区域は、「家屋倒壊等氾濫想定区域」として示されます。

これらの区域では、⁠水が来ても2階で待てばよい、という考え方が通用しない場合があります。実際、⁠手引きは、屋内安全確保(垂直避難)では命を守りきれない区域が存在するとして、市町村が「早期の立退き避難が必要な区域」を設定するよう求めています。

避難所と避難経路も、自分の足で確認する

最後に、⁠避難です。物件の位置が分かっても、避難所までの道が、冠水しやすい低い道なのか、川を渡る橋を通るのかで、実際に逃げられるかが変わります。避難所の位置は、⁠重要事項説明で示すことが「望ましい」とされているだけなので、自分自身で最寄りの避難所とそこまでの経路を、地図で確認しておきましょう。

調べ方の手順:4つのステップで確認する

ステップ1:市町村のハザードマップを見る

まず、⁠物件のある市町村が作成した水害ハザードマップを、市町村のホームページなどで確認します。これが、⁠重要事項説明で使われるものです。国土交通省・国土地理院の「ハザードマップポータルサイト」にある「わがまちハザードマップ」から、各市町村のマップに移動できます。

ステップ2:「重ねるハザードマップ」で、国・県の情報を重ねる

次に、⁠ハザードマップポータルサイトの「重ねるハザードマップ」で、洪水、土砂災害、津波などのリスク情報を、重ねて表示します。ただし、⁠この地図の情報は、国や都道府県等が作成した災害リスク情報であり、市町村が作成した水害ハザードマップとは別物です。同サイトのQ&Aでも、重要事項説明の際には、必ず市町村の作成したマップを使うよう案内されています。つまり、⁠補完の役割として使うのが、適切です(これだけを信用しない)。

土砂災害は、「警戒区域」と「特別警戒区域」で意味が違う

土砂災害については、土砂災害防止法に基づき、都道府県知事が区域を指定します。「土砂災害警戒区域」は、住民等の生命・身体に危害が生ずるおそれがあり、警戒避難体制を特に整備すべき区域です(法7条)。そのうち、⁠建築物に損壊が生じ、住民等の生命・身体に著しい危害が生ずるおそれがある区域が「土砂災害特別警戒区域」で、一定の開発行為の制限や、居室を有する建築物の構造の規制がかかります(法9条)。購入予定地が特別警戒区域内にある場合は、建築の制限を事前に確認しておく必要があります。

ステップ3:地形と、過去の被害を確認する

ハザードマップは、⁠想定に基づく地図です。土地の成り立ちを知るには、国土地理院の「治水地形分類図」が役立ちます。氾濫平野、⁠旧河道、後背湿地など、水の流れやすさや、水が引きにくい場所を、地形から読み取れます。解説書によれば、⁠浸水継続時間が比較的長いと予測できる場所として、後背湿地などが挙げられています。

また、⁠過去の被害を伝える石碑は、「自然災害伝承碑」として、地図記号や地理院地図で確認できます。ハザードマップの確認率は73.7%に対し、過去の水災害情報の確認率は46.2%という調査結果もあり、過去の被害は、見落とされやすい情報です。

ステップ4:現地で、高さと水の流れを確かめる

最後に、⁠現地を歩いて確認します。周囲より低い土地か、川や水路、用水路との位置関係はどうか、道路の勾配や側溝の状態はどうかを、実際に見ましょう。雨の日や大雨の後に足を運べるなら、なお確実です。

不動産会社に、聞いておきたい5つのこと

市町村のマップを見たうえで、不動産会社に、次の5点を質問してみてください。

  • このハザードマップは、いつ作成された版か。
  • 浸水継続時間が長い区域や、家屋倒壊等氾濫想定区域に、含まれるか。
  • 過去に、⁠この物件や近隣で、浸水した履歴はあるか(売主への確認を含む)。
  • 最寄りの避難所と、⁠避難経路は、どうなっているか。
  • 火災保険の水災補償は、どうなっているか。

説明義務の範囲外の質問でも、買主として質問することは自然なことです。その場で分からない点は、「市町村に確認する」という形で、解消しておきましょう。

見落としがちな落とし穴:7つの「思い込み」

思い込み1:「色が付いていないから、安全」

色が付いていない場所はあくまで、現時点で想定された浸水区域の外、という意味です。国土交通省のQ&Aでも、重要事項説明では区域外でも位置を示し、水害のリスクがないと誤認させないよう配慮することとされています。重ねるハザードマップのQ&Aでも、災害リスクが表示されない場所でも、周りより低い土地や崖のそばは、注意するよう案内されています。土砂災害警戒区域も、過去の災害の9割以上をカバーするよう、地形から決められているため、指定されていない場所で、土砂災害が起きる場合があります。

思い込み2:「近所への引っ越しだから、よく知っている」

先ほどの調査で、⁠被災経験がない人のうち、同じ郵便番号のエリア内で転居した人が、水災害リスクを確認しなかった割合は、32.3%でした。同一市内の別エリアからの転居では、20.2%です。近所だと、⁠地形や雰囲気を知っている気になり、調べない傾向が見えます。実は、⁠同じ町内でも、川からの距離や標高で、浸水の想定は大きく変わります。

思い込み3:「ハザードマップは最新のはず」

実は、⁠市町村のマップが最新とは限りません。国土交通省のQ&Aでは、浸水想定区域が見直されても、その見直しがマップに反映されていない場合は、現存する最新のマップを使えばよい、とされています。令和3年の水防法改正で、浸水想定の対象が広がり、全ての一級・二級河川(20,819河川)の洪水浸水想定区域が、令和7年度末までに作成・公表されました(国土交通省)。市町村のマップへの反映には時間がかかるため、国や都道府県の最新の情報も、合わせて確認しておく価値があります。

思い込み4:「上の階なら、浸水しても大丈夫」

先ほど述べたとおり、垂直避難だけでは命を守りきれない区域があります。また、⁠浸水が長く続けば、停電や断水、食料の確保など、生活への支障が続きます。浸水深の目安は、⁠標準的な家屋のもので、実際の建物では異なります。

思い込み5:「近くに川がないから、洪水は関係ない」

川から離れていても、大雨で下水道の排水能力を超えると、「内水氾濫」が起きる場合があります。水防法は、⁠これを「雨水出水」として、浸水想定区域の対象にしています。令和3年の改正で、⁠下水道などの指定対象が広げられました。川がない場所でも、⁠内水のハザードマップは、必ず確認しましょう。

思い込み6:「マンションの上層階なら、水害は関係ない」

マンションの場合は、住戸の階だけでなく、電気設備の位置も重要です。令和元年東日本台風では、神奈川県川崎市の武蔵小杉のタワーマンションで、地下の電気室が浸水して停電し、エレベーターや給水設備が使えなくなりました(国土交通省・経済産業省)。上層階でも、⁠停電や断水で生活への支障が長引く可能性があります。購入前に、⁠受変電設備や非常用電源の位置を管理組合に確認しておくと安心です。

思い込み7:「ハザードマップは、保険や価格とは関係ない」

実際には、⁠お金にも関わります。損害保険料率算出機構は、火災保険の水災料率を、市区町村別に、1等地から5等地までの5区分に細分化しています(2023年6月届出、保険会社によって適用は異なります)。最も高い地域は、⁠最も安い地域の約1.2倍で、同機構は、洪水ハザードマップとは必ずしも一致しないと説明しています。

価格への影響も、⁠研究で示されています。日本銀行のワーキングペーパーは、公示地価のデータをもとに、想定浸水深が1m深くなると、住宅地で平均約1.1%、商業地で約4.7%、地価が下落することを示唆しています。数字は一例ですが、⁠リスクが価格にも織り込まれているわけです。

まとめ:購入前のチェックリスト

購入前に、⁠次の項目を確認してください。

  • 市町村の水害ハザードマップ(洪水・内水・高潮)で、物件の位置を確認した。
  • 土砂災害警戒区域、⁠津波災害警戒区域に入っていないかを確認した。
  • 浸水深(0.5m・3m・5m)と、自分が住む階の関係を確認した。
  • 浸水継続時間と、⁠家屋倒壊等氾濫想定区域を確認した。
  • 最寄りの避難所と、⁠そこまでの経路を、地図で確認した。
  • 重ねるハザードマップ、地形、自然災害伝承碑で、国・県の最新情報と過去の被害を確認した。
  • 現地を歩き、⁠低さや水の流れを確認した。
  • 火災保険の水災補償の内容と、水災等地を確認した。

まとめ

ハザードマップは、「見た」では終わらず、
深さ・長さ・逃げ方・新しさまで確認する

ハザードマップで確認すべきことは、災害の種類、浸水の深さ、浸水の継続と家屋倒壊、避難、情報の新しさの5つです。重要事項説明で義務なのは、物件の位置を示すことが中心なので、説明を受けるだけでなく、自分でも調べることが大切です。調査では、⁠説明を受けても約3人に1人が、気に留めなかった、または覚えていませんでした。あなたが購入を検討している物件は、どの災害の、どの深さの区域にあるでしょうか。まずは、⁠市町村のハザードマップと重ねるハザードマップで、物件の位置を確認してみてはいかがでしょうか。

※本記事の内容は、⁠宅地建物取引業法施行規則、水防法、国土交通省「宅地建物取引業法施行規則の一部改正(水害リスク情報の重要事項説明への追加)に関するQ&A」(令和2年7月17日現在)、
同「水害ハザードマップ作成の手引き」(平成28年4月、令和3年12月一部改定)、国土交通政策研究所「住宅購入者の水災害リスクに対する意識の把握」(2025年)、国土地理院(ハザードマップポータルサイト、治水地形分類図、自然災害伝承碑)、日本銀行ワーキングペーパー「水害リスクが地価に及ぼす影響」(2022年)、損害保険料率算出機構の公開情報をもとに作成しています。重要事項説明の運用は、改訂される場合があります。購入者調査は、⁠5都市の戸建て購入者へのインターネット調査で、全国の傾向を示すものではありません。個別の物件については、宅建業者・市町村等にご確認ください。


冨田隼平

WRITER冨田 隼平
不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士ほか
大手信託銀行にて不動産売買仲介、その後業界最大手の鑑定会社にて不動産鑑定評価業務に従事。
現在は独立し、鑑定士として価格調査・鑑定評価・コンサルティングを提供するほか、エージェントとして売買・賃貸のサポートなども行っています。

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