嫌悪施設とは?近くにある物件は​避けるべき?種類・⁠価格への影響・⁠​見分け方を鑑定士が解説

皆さんは気になる物件の近くに「嫌悪施設」があると聞いたとき、その物件は避けるべきだとすぐに判断していませんか?なんとなく、「墓地やごみ焼却場の近くは安いかもしれないけれど、やめておいたほうがいい。」くらいで考えていませんか?
ネットでも、⁠嫌悪施設の近くの物件は避けるべきだと書かれていることが多いですから、その考えになるのも無理はないと思います。ただ実はこの嫌悪施設、法律上の定義がなく、価格への影響も種類や距離や買う人によって大きく変わるんです。墓地の隣は日当たりや眺望が保たれやすいといった、意外な利点もあります。
今日は嫌悪施設とは何か、種類ごとの影響、買う前の確認方法を順番に整理していきます。

嫌悪施設を考える住宅街の通りと電柱の街並み

先に結論:嫌悪施設は「絶対に避けるもの」ではなく、種類と程度で見る

結論は、次の3つです

結論から言うと嫌悪施設の近くの物件を避けるべきかは、一律には決まりません。理由は次の3つです。

  • 一つ目:嫌悪施設には、法律上の定義がありません。「音」「臭い」「危険」「心理」の4つのタイプに分けると、どこを確認すればよいかが見えてきます。
  • 二つ目:価格への影響は、一律ではありません。不動産鑑定の物差しでも、影響は数ポイントから2割程度など、条件によって幅があります。東京23区の分析でも、清掃工場の近くが一律に安いわけではありませんでした。
  • 三つ目:気になるかどうかは、人それぞれです。横浜市の調査では、近くに墓地が計画されることに「反対」と答えた人は、14.1%でした。

つまり、⁠「嫌悪施設があるからダメ」ではなく、「自分にとって何がどの程度気になるのか」を確認して決めるのが現実的です。

嫌悪施設とは?法律上の定義はなく、4つのタイプに分けられる

「嫌悪施設」に、明確な定義はない

実は、⁠嫌悪施設という言葉に法律上の定義はありません。不動産流通推進センターの相談事例(2016年2月掲載)でも「嫌悪施設の明確な定義はない」と述べたうえで、嫌悪を感じるかどうかは個々人により判断が異なり、時代背景や技術の進歩により嫌悪感が薄れることもあるとしています。

不動産鑑定評価基準も住宅地域の地域要因として「汚水処理場等の嫌悪施設等の有無」、個別的要因として「汚水処理場等の嫌悪施設等との接近の程度」を挙げているだけです。具体例は「汚水処理場」だけで、墓地やごみ焼却場が、基準に名指しされているわけではありません。

騒音・臭気・危険・心理の4タイプで整理する

同センターの相談事例では、住宅地の近くにある主な嫌悪施設を現れる現象によって、次の4つに整理しています。

嫌悪施設とは何か、4つのタイプ別の施設例と確認の仕方

このように分けると、確認する方法がタイプごとに違うことが分かります。音や臭いは現地で体感して、数値の基準とも比べられます。危険を感じさせる施設は、法令の規制値が定められている場合が多く、それを満たしているかを確認します。一方、⁠心理的な忌避は個人差が大きく、数字では測れません。

音:環境基準という「物差し」がある

騒音には、⁠環境省の環境基準があります。専ら住居の用に供される地域(A類型)の一般地域では、昼間(6時〜22時)55デシベル以下、夜間45デシベル以下です。2車線以上の道路に面するA地域では、昼間60デシベル、夜間55デシベルが基準です(環境省)。内見のときにスマートフォンの騒音計アプリでも測ってみると感覚だけに頼らず、比べられます。

煙・臭い:技術の進歩で、状況は大きく変わっている

ごみ焼却場に対する不安は、かつてはダイオキシン類が中心でした。環境省の排出インベントリーによると、日本のダイオキシン類の排出総量は、令和4年に平成9年から約99%減少しています。だからといって、⁠臭いや車両の出入りが、まったくなくなるわけではありません。ただ、⁠「ごみ焼却場=危険」という昔のイメージは、そのまま当てはまらなくなっています。

危険:電気設備には、国の規制値がある

高圧線の鉄塔は危険を感じさせる施設の代表です。送電線などの電気設備から出る磁界は、2011年10月から、国の技術基準で200マイクロテスラ(μT)以下に規制されています(経済産業省)。電界についても、⁠1976年から規制値があります。技術基準を満たすことが前提ですので、規制の存在を知っておくと感覚的な不安とは別に客観的な物差しを持てます。

なお一つの施設が、複数のタイプに当てはまることもあります。たとえば火葬場は煙や臭いの面と心理的な面の両方で受け止め方が分かれる施設です。タイプを分けて考えると「何が気になるのか」を自分で整理しやすくなります。

嫌悪施設の近くの物件は、価格にどれくらい響くのか

鑑定の物差し:影響は「ある・なし」ではなく、程度で決まる

不動産鑑定では土地の価格を比べるとき、「土地価格比準表」という表を使うことがあります。この表では、変電所・汚水処理場など危険施設・処理施設の有無や影響の大きさに応じて価格の格差を決めています。平成28年の改訂前の表(東京都不動産鑑定士協会の研究報告に掲載)で見ると次のとおりです。

  • 優良な住宅地域の地域要因:施設が「ない」地域と比べて、「ある」地域は影響が小さければ5ポイント、大きければ20ポイントの減価です。
  • 標準的な住宅地域の地域要因:同じ比較で、1ポイントから5ポイントの減価です。
  • 個別的要因(対象地への接近の程度):1.5ポイントから7.5ポイントの減価です。

ポイントは基準を100とした格差の目安で、数%から2割程度の価格差に当たる考え方です。つまり、⁠「あれば大きく下がる」とは決まっておらず、地域のグレードや、影響の大きさで変わります。なお現行の表の数値は、本記事では確認できていませんので、目安としてご覧ください。

東京23区の分析:清掃工場の近くが、一律に安いわけではない

実際の取引ではどうなっているのでしょうか。東京都不動産鑑定士協会と東京工業大学(現:東京科学大学)が、東京23区の約14,600件の取引事例(原則として更地)を使い、1万㎡以上の公園と清掃工場の影響を分析しています(2011年)。清掃工場の近くで地価の減価を示す結果が出たのは目黒、渋谷、豊島、杉並、新江東の5つの工場の周辺でした。郊外の光が丘、⁠板橋、北、葛飾などの工場では減価はあまり大きくありませんでした。

さらに管理職世帯が多い地域のほうが、ファミリー世帯が多い地域より、減価の程度が大きい傾向がありました。報告書は、清掃工場だからといって画一的にマイナス評価をするのではなく、施設の規模や影響を受ける地域の特性に応じて評価することが鑑定の実務にも合っていると述べています。

嫌悪施設の近くの物件は避けるべきか、鑑定の物差しと東京23区の分析

この結果は買う側にとっても、意味があります。「清掃工場の近く=一律に安い」とは限らず、同じ施設でも周辺の街の性格によって価格への出方が違うということです。物件の価格が周辺相場より極端に安いのかどうかは、同じエリアの取引事例と比べて初めて判断できます。

「安い」は、リスクの値引きであり、お得とは限らない

嫌悪施設の近くの物件は、同じ条件の物件より、価格が低めに出ることがあります。ただし、⁠その安さは気になる人がいる分の値引きであり、お得かどうかは住む人次第です。また将来売るときも同じ理由で買い手の層が狭まる可能性があります(一般論です)。買う側にとっては安さだけで決めず、自分が許容できるか、将来の売却や賃貸の際にも説明できるかを考えておくと安心です。

「人それぞれ」を数字で見る:墓地のアンケートと、墓地の隠れた利点

墓地に反対する人は、約14%。反対の理由の1位は「渋滞」

横浜市が平成25年3月にまとめた「墓地に関する市民アンケート調査」(回収数1,458件)では、住まいの近くに墓地が計画されたらどう思うかを聞いています。結果は「反対である」が14.1%、「計画の内容によっては反対しない」が42.9%、「できてもよい」が22.6%でした。

反対の理由(「反対」「内容によっては反対しない」と答えた870人への質問)で最も多かったのは、「墓参が集中する時期に周辺の交通渋滞や迷惑駐車が発生する恐れがある」の52.5%です。「心理的に受け入れられない」は31.8%、「土地の価値が下がる恐れがある」は16.2%でした。年代別では、⁠「反対である」が20歳代で24.6%と最も高く、60歳代で8.5%と最も低くなっています。同じ施設でも、⁠年代で受け止め方がこれだけ違います。

嫌悪施設は避けるべきか、墓地に関する横浜市のアンケート結果

墓地の隣は、高い建物が建ちにくい?

墓地には、⁠実は隠れた利点があるとも言われます。墓地、⁠納骨堂、火葬場は経営するときだけでなく、区域を変更したり廃止したりするときも都道府県知事の許可が必要です(墓地、埋葬等に関する法律10条)。つまり、⁠簡単には別の用途に転換できません。その結果、隣接する土地の日当たりや眺望が、長く保たれやすい傾向があると考えられます。

ただし、⁠これは法的な保証ではありません。墓地の隣にある、⁠別の土地の高さ制限や用途は、用途地域などで別に決まります。「墓地の隣だから、絶対に高い建物が建たない」とは言い切れない点には、注意してください。

火葬場やごみ焼却場は、突然は建たない

もう一つ、⁠意外な事実があります。火葬場、⁠ごみ焼却場、汚物処理場などは都市計画で敷地の位置が決まっていないと原則として新築や増築ができません(建築基準法51条)。これらは都市計画法11条の「都市施設」にも挙げられています。つまり、⁠ある日突然隣に建つ可能性は低く、市区町村の都市計画の情報で事前に確認できます。

買う前に確認すること:法律・都市計画・現地

不動産会社には、重要な事項を告げる義務がある

宅建業法47条1号ニは、不動産会社(宅建業者)が環境などに関する事項で相手方の判断に重要な影響を及ぼすものについて故意に事実を告げず、または不実のことを告げることを禁じています。嫌悪施設もこれに当たる場合があります。

一方、⁠不動産流通推進センターの相談事例は、嫌悪施設と考えられるもの全てを説明する必要はないとも述べています。買主の判断に影響を与えるものや、生活に支障が出るおそれがある施設なら、説明する義務がある、という整理です。またどのくらいの距離なら説明しなくてよいかの基準は、ありません。不動産会社は地図や現地の確認、売主や近隣へのヒアリング、役所への確認などで影響を予測して判断します。

気になる施設は、自分から質問して、記録に残す

同じ相談事例の監修者コメントでは買主から付近の施設について質問や照会がなければ、説明の義務がない場合もある、とされています。つまり、⁠気になる施設があるなら、受け身で待たず、自分から質問することが大切です。口頭で聞いた内容はメールなどの記録に残しておくと後で確認できます。

契約してから知っても、解除は簡単ではない

不動産流通推進センターの相談事例には、売買契約後に約200m先で下水道処理施設の建設が予定されていると分かったケースがあります。この事例では、⁠買主が物件の瑕疵や売主の告知義務違反を理由に、契約を解除するのは難しいとされています。建設予定で影響の度合いが未知であり、売主にも認識がなかったためです。ただし、⁠隣地に既存の嫌悪施設があり、生活上重大な影響があるのに告げなかった場合は責任を問われる可能性があるとも述べています。いずれにしても契約後に知って後悔しないために、契約前に調べることが大切です。

不動産会社に聞いておきたい5つの質問

気になる施設がある場合は、次の5点を不動産会社に質問してみてください。

  • どんな施設で物件からどのくらいの距離にあるのか。
  • 稼働時間帯や、⁠搬入出の車両の動きは、どうなっているのか。
  • 音・臭い・煙などについて、近隣から苦情が出ていないか。
  • 施設の増設や建て替え、新設の計画はないか。
  • 売主はその施設について、何か把握しているか。

現地では、時間帯・曜日・風向きを変えて見る

音や臭いは時間帯や曜日、風向き、季節で変わります。内見はできれば次の条件で複数回行いましょう。

  • 平日の朝・夕、⁠休日の昼・夜の4パターンで歩いてみる。
  • 風向きが分かる日と雨の日にも確認する。
  • 施設への搬入車両や、イベント日の人の流れを地図と合わせて見る。
  • 近隣の掲示物や、⁠反対運動の看板がないかを確認する。
  • 市区町村の都市計画の担当部署で、周辺の都市施設や計画を確認する。

売る側は、知っていることを先に伝える

売主の立場でも、⁠近くの嫌悪施設は避けて通れません。同じ相談事例の監修者コメントは、住宅地に近い場所に施設が建設される場合、反対運動や市の広報などで知らされるのが通常だとしています。売主が全く知らなかったとは考えにくく、告知義務が問題になるという見方です。知っている事実は、⁠先に伝えておくほうが、後のトラブルを避けられます。価格についても施設の影響を踏まえて、現実的な価格を設定することが、結果的に早い成約につながるでしょう。

まとめ:タイプ別の「避ける・許容する」判断ガイド

ここまでの内容をタイプ別の判断の目安として、整理します。

  • 音・振動(幹線道路、鉄道など):現地で時間帯を変えて確認し、環境基準と比べる。気になる人は避け、⁠防音で対処できるなら許容する。
  • 煙・臭い(工場、⁠ごみ焼却場、火葬場など):風向きと季節を確認する。技術の進歩で状況は変わっているので、昔のイメージだけで判断しない。
  • 危険(高圧線、⁠ガスタンクなど):国の規制値を満たしているかを確認する。感覚的な不安が強い人は避ける。
  • 心理的な忌避(墓地、葬儀場など):人それぞれで反対は約14%。日当たりや眺望が保たれやすい利点もある。

まとめ

嫌悪施設は「絶対に避ける」のではなく、種類と程度で見て、自分に合うかを決める

嫌悪施設には、⁠法律上の定義がなく、音・臭い・危険・心理の4つのタイプに分けると確認すべき点が見えてきます。価格への影響も鑑定の物差しや東京23区の分析のとおり、一律ではありません。墓地のアンケートでも、反対は約14%と人によって受け止め方は大きく異なります。避けるべきかは、⁠自分にとって何が、どの程度気になるのかで決まります。あなたが気になるのは音・臭い・危険・心理のうち、どのタイプでしょうか。まずは候補の物件の周辺を時間帯を変えて歩き、気になる施設を不動産会社に質問してみてはいかがでしょうか。

※本記事の内容は不動産鑑定評価基準、公益財団法人不動産流通推進センター「重要事項説明における『嫌悪施設』の調査範囲」(2016年2月掲載)、東京都不動産鑑定士協会「空間の多様性を考慮したヘドニック・アプローチの開発」(2011年)、横浜市「墓地に関する市民アンケート調査」(平成25年3月)、環境省(騒音に係る環境基準、ダイオキシン類の排出量の目録)、経済産業省(電磁界に対する規制)、墓地、埋葬等に関する法律、建築基準法、都市計画法、宅地建物取引業法をもとに作成しています。
比準表の数値は平成28年改訂前の版の例です。ポイントを数%の価格差に読み替える部分は、筆者の解説です。
個別の物件については不動産会社・不動産鑑定士等の専門家にご確認ください。


冨田隼平

WRITER冨田 隼平
不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士ほか
大手信託銀行にて不動産売買仲介、その後業界最大手の鑑定会社にて不動産鑑定評価業務に従事。
現在は独立し、鑑定士として価格調査・鑑定評価・コンサルティングを提供するほか、エージェントとして売買・賃貸のサポートなども行っています。

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