相続が発生したら誰に相談する?税理士・司法書士・弁護士などの違いと場面別の選び方

皆さんは身近な方が亡くなったあとに相続が発生したら誰に相談すればよいのか、きちんと説明できますか?なんとなく、「相続といえば税理士でしょ。」「揉めたら弁護士で登記は司法書士だっけ。」くらいの理解で止まっていませんか?
無理もないとは思います。相続は一生のうちに何度も経験するものではありませんし、弁護士、税理士、司法書士、行政書士と専門家の看板も似たように見えますから。ただ実はこの「誰に相談するか」、肩書きの印象だけで選ぶと頼んだ内容が法律上その専門家にはできない業務で、振り出しに戻ることもあるんです。
今日は各専門家の「できること」と「できないこと」、そして場面別の選び方を順番に整理していきます。

相続の相談で書類を確認する専門家の手元

先に結論:相続の専門家は「4つの質問」で決まる

相続が発生したら誰に相談する?肩書きではなく、いま困っていることで選ぶ

結論から言うと相続の相談先は、肩書きの印象より、いま何に困っているかで選ぶのが確実です。
次の4つの質問に答えてみてください。

  • 一つ目:期限が迫っているものはないか。相続放棄は3か月、被相続人の準確定申告は4か月、相続税の申告は10か月と手続ごとに期限があります。
  • 二つ目:相続人同士で揉めていないか。話し合いがこじれているなら、交渉や調停の代理ができる弁護士が最優先です。
  • 三つ目:相続税がかかりそうか。遺産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えそうなら、税理士の出番です。
  • 四つ目:不動産があるか。名義変更は司法書士、境界や未登記の建物は土地家屋調査士、
    売却は宅建(不動産)業者、時価の把握は税理士や不動産鑑定士と場面で変わります。

複数に当てはまっても、心配はいりません。実際の相続では、⁠複数の専門家が分担するのが普通です。大切なのは、⁠「何を誰に頼むのか」を最初に切り分けることです。

専門家なしで進められる部分も、実は多い

最初から専門家に頼まなくても、できることはあります。たとえば、⁠相続人を確定するための戸籍の収集です。集めた戸籍をもとに法務局に「法定相続情報一覧図」を出せば、登記官が確認した写しを無料で交付してもらえます(法務局)。この写しは相続登記や金融機関の手続で、戸籍の束の代わりに使えます。

財産の調査も同じです。民法915条2項は、相続人が、承認や放棄をする前に相続財産を調査できると定めています。預貯金や借金、⁠不動産を一覧にしておけば、専門家への相談も短時間で済みます。

相続の専門家は、法律で「できること」が決まっている

士業は、資格名ではなく「業務範囲」で分かれる

弁護士、⁠司法書士、税理士といった専門家はそれぞれ別の法律でできる業務の範囲が決まっています。しかもその範囲を無資格の人が報酬を得て行うことは、禁じられています。たとえば、⁠弁護士でない人が報酬を得る目的で、法律事件の代理や和解などを業とすることはできません(弁護士法72条)。同じように、⁠税理士でない人の税務代理は税理士法52条が、登記の申請代理などは司法書士法73条がそれぞれ制限しています。

つまり、⁠相談先を間違えると「その業務は私にはできません」と言われて、日数だけが過ぎるおそれがあります。相続で関わる主な専門家を一覧にしました。

相続で誰に相談するか、専門家ごとの業務範囲の一覧

弁護士:揉めたら最優先。実は税務もできる

弁護士の職務は訴訟事件や非訟事件のほか、一般の法律事務です(弁護士法3条)。遺産分割の交渉、⁠家庭裁判所での調停や審判の代理、遺言や遺留分の相談は弁護士の守備範囲です。意外なのは、同じ条文の2項が、弁護士は当然に税理士の事務を行うことができるとしている点です。税理士法51条により、国税局長に通知すれば、相続税の申告もできます。ただ、⁠実務では相続税の申告は、税理士が担うことが多いようです。

司法書士:登記の専門家。調停の代理人にはなれない

司法書士の仕事は登記や供託の手続の代理、法務局や裁判所に出す書類の作成などです(司法書士法3条)。相続では、⁠相続登記が中心になります。一方で家庭裁判所の調停や審判では、代理人になれません。書類を作ることはできますが、代理ができるのは、法務大臣の認定を受けた司法書士が簡易裁判所で扱う、請求額が140万円を超えない事件などに限られます。揉めている場面では、弁護士が適任です。

税理士:相続税の申告は、税理士にしか頼めない

税理士は税務代理、税務書類の作成、税務相談を業とします(税理士法2条)。相続税の申告書の作成や、被相続人の準確定申告は、税理士の業務です。税理士でない人が、⁠これらを行うことは税理士法52条で制限されています(弁護士は、国税局長への通知で行えます)。反対に遺産分割の交渉の代理や、登記の申請は、税理士の業務ではありません。

行政書士:書類作成の専門家。代理も登記も、⁠税務もできない

行政書士は官公署に提出する書類や、権利義務、事実証明に関する書類を作成します(行政書士法1条の3)。遺産分割協議書や相続関係説明図、財産目録などの作成が、代表的な業務です。ただし、⁠他の法律で制限されている業務は行えません(同条2項)。そのため登記の申請代理、税務書類の作成、紛争の代理はできません。「書類を整えてほしい」場面向けの専門家です。

周辺の専門家:測量・年金・評価・売却

相続では、⁠さらに次の専門家が関わることがあります。
土地家屋調査士は土地の測量や境界の確認、建物の表題登記などを担当します(土地家屋調査士法3条)。
社会保険労務士は年金などの申請書類の作成や、手続の代行、相談を行います(社会保険労務士法2条)。
不動産鑑定士は不動産の鑑定評価を行います(不動産の鑑定評価に関する法律3条)。
宅建業者は不動産の売却などの媒介をします。価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければなりません(宅建業法34条の2第2項)。

名乗る肩書きより、「どの資格で、何ができるか」を確認する

「相続コンサルタント」「相続アドバイザー」など、民間資格や肩書きで案内する窓口もあります。相談相手として、⁠役立つ場面はあるでしょう。ただし、⁠代理や書類の作成、申請といった法律で決められた業務はここまで見た資格者にしかできません。窓口の肩書きではなく、実際に手続を行うのがどの資格者なのかを最初に確認してください。

場面別の相談先と、期限のカレンダー

相続の流れを時系列で見ていきます。期限が決まっている手続から順に、誰に頼めるかを整理します。

死亡直後〜3か月:まず「放棄するか」を決める

死亡届は、⁠届出義務者が死亡の事実を知った日から7日以内に出します(戸籍法86条)。
その後、⁠最初の山場が、相続放棄と限定承認です。民法915条は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・放棄のいずれかをしなければならないと定めています。この期間は利害関係人の請求により、家庭裁判所で伸長できます。

放棄の手続は家庭裁判所への申述で行います(民法938条)。借金の有無が分からないときは、期間の伸長を検討しながら、財産の調査を進めます。申述書の作成は司法書士、代理まで任せたい場合や、判断に迷う場合は弁護士が相談先になります。

4か月〜10か月:申告と、遺産分割の話し合い

被相続人が確定申告をする立場だった場合は、相続人が、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告をします(所得税法125条)。相続税の申告と納付は同じく、翌日から10か月以内です(相続税法27条)。どちらも税理士が担当する領域です。

遺産分割は、⁠共同相続人が、いつでも協議で行えます(民法907条1項)。協議がまとまらなければ、家庭裁判所に分割を請求できます(同条2項)。協議書の作成は書類作成を得意とする行政書士や、相続登記まで見据える司法書士に頼めます。ただし、⁠揉めている場合の交渉は、弁護士の仕事です。

調停を申し立てる場合、申立先は、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です(相手方との合意で別の家庭裁判所にすることもできます)。申立書のほか、⁠被相続人の出生から死亡までの戸籍や相続人全員の戸籍、遺産の資料などが必要です。法定相続情報一覧図の写しで足りるかどうかは、申立先の家庭裁判所に確認してください。

10か月以降〜3年:遺留分と、相続登記

遺言で自分の取り分が遺留分に満たなかった場合、遺留分侵害額の請求は、相続の開始と侵害を知った時から1年で時効になります(民法1048条)。相続開始から10年を過ぎても、同様です。相続登記は不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法76条の2、164条)。令和6年4月1日より前に始まった相続も、令和9年3月31日までに申請が必要です(法務省)。

相続が発生したら誰に相談するか、期限と相談先のカレンダー

意外に知られていない事実:揉めるのは資産家だけではない

遺産分割の約8割は、遺産5,000万円以下

「うちは財産が少ないから、揉めようがない」と考えがちですが、統計は逆を示しています。令和5年司法統計年報によると遺産分割事件のうち、認容または調停成立で終わった7,297件を遺産の価額別に見ると1,000万円以下が33.9%、1,000万円超5,000万円以下が43.6%でした。つまり、⁠5,000万円以下が約8割(77.5%)を占めます。
財産が少なくても、⁠不動産が自宅だけだと分けにくいことが、揉める一因になると考えられます(これは筆者の推測です)。

相続税を払う人は約1割。でも、⁠申告書を出す人は約12%

国税庁によると令和5年分の被相続人1,576,016人のうち、相続税の申告書の提出に係る被相続人は155,740人で、課税割合は9.9%でした。これとは別に相続税額のない申告書が38,121人分あります。合計すると約12%の人が、申告書を出した計算です。税額がゼロでも、⁠特例の適用のために申告が必要になる場合があるためです。
「うちは課税されないから税理士は関係ない」と決めつけず、基礎控除を超えそうか、特例を使いたいかを一度確認してみる価値があります。

遺産分割事件の遺産額別の割合と、相続税の課税割合

相続放棄は、年間28万件を超える身近な選択肢

相続放棄も決して珍しい手続ではありません。
令和5年司法統計年報では、相続の放棄の申述の受理の新受件数は、282,785件でした。この件数は申述した相続人ごとに数えるため、被相続人の数とは一致しません。「借金が不安」「関わりたくない」など理由はさまざまですが、期限は3か月と短いので、迷ったら早めに専門家へ相談する価値があります。

調停・審判が成立した事件の約85%に弁護士がついている

同じ司法統計では認容・調停成立の7,297件のうち、代理人弁護士の関与があったのは6,170件(84.6%)でした。審理期間も1年を超えたものが約4割(41.9%)あります。いったん家庭裁判所に持ち込まれると代理人をつけて、長期戦になる傾向があるわけです。だからこそ、⁠揉めそうだと感じた早い段階で、話し合いの進め方を弁護士に相談しておく意味があります。

無料・低額で使える窓口と、相談前の準備

まずは、公的な窓口を使ってみる

いきなり有料の専門家に頼まなくても、使える窓口があります。

  • 法務局:相続登記や法定相続情報証明の相談に応じています。法定相続情報の写しは無料です。自筆証書遺言書保管制度は、1通につき3,900円で保管された遺言書は家庭裁判所の検認が不要です(法務省)。
  • 法テラス:収入や資産が基準以下なら、弁護士や司法書士による無料法律相談を、同一の問題につき3回まで1回30分程度の目安で受けられます。単身者の収入基準は、月収182,000円以下(東京都特別区などは200,200円以下)、現金・預貯金は180万円以下です(2026年3月時点)。
  • 弁護士会の法律相談:たとえば東京弁護士会では、一般相談が30分5,500円(税込)、延長15分につき2,750円です。窓口により、⁠料金や条件は異なります。
  • 家庭裁判所の家事手続案内:手続の利用方法を案内してもらえますが、法律相談には応じてもらえません。遺産分割調停の申立ては、収入印紙が被相続人1人につき1,200円で、ほかに連絡用の郵便切手が必要です。
  • 税務署:税金の仕組みや申告について、相談ができます。

費用の面では弁護士、税理士、司法書士などの報酬は事務所ごとに異なります。
相談の際は依頼する範囲と見積りの内訳、追加費用の有無を必ず確認してください。
無料相談を使って複数の事務所を比べるのも一つの方法です。

相談前にそろえておきたい資料

専門家に相談する前に次の資料をそろえておくと話が早く進みます。被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、法定相続情報一覧図、不動産の登記事項証明書や固定資産税の納税通知書、預貯金の通帳や残高証明書、借金の資料、遺言書の有無です。遺言書が自筆で見つかった場合は、開封せず、家庭裁判所の検認が必要かどうかを確認しましょう(法務局保管の遺言書は不要)。

窓口を一本化したいときの選択肢

「何人もの専門家に連絡するのは大変」という方もいるでしょう。その場合は複数の士業が連携している相続窓口や、金融機関の遺産整理業務など、まとめて引き受ける窓口もあります。ただし、⁠窓口の肩書きではなく、実際に手続を行うのが、どの資格者なのかを確認してください。また報酬は事務所や金融機関ごとに異なりますので、見積りの範囲と追加費用の有無を契約前に書面で確認しましょう。

まとめ:あなたの状況別・相談先の早見表

相続が発生したら誰に相談するかは、状況別に整理すると次のとおりです。

  • 借金の有無が分からない、放棄を考えている:弁護士、または司法書士(書類作成)
  • 相続人同士で揉めている、揉めそう:弁護士
  • 相続税がかかりそう、準確定申告がある:税理士
  • 不動産の名義を変えたい:司法書士。境界や未登記建物が絡む場合は、土地家屋調査士
  • 遺産分割協議書などの書類を整えたい:行政書士、または司法書士
  • 不動産を売りたい、⁠時価を知りたい:宅建業者、不動産鑑定士、税理士
  • 遺族年金など、⁠年金の手続:社会保険労務士、または年金事務所

まとめ

相続の相談先は「困りごと」で決め、期限の近いものから切り分ける

相続が発生したら誰に相談するかは、肩書きではなく、期限・揉めごと・税金・不動産の4つの質問で決まります。各専門家は、⁠法律で「できること」が決まっているため、頼む内容と専門家が合っているかを最初に確認することが大切です。
まずは法務局の法定相続情報や法テラスなど、無料の窓口を使いながら、相続人と財産を整理してみてください。あなたの相続でいちばん期限が近いのは、どの手続でしょうか。その手続の担当者に早めに連絡してみてはいかがでしょうか。

※本記事の内容は民法、戸籍法、所得税法、相続税法、不動産登記法、弁護士法、司法書士法、税理士法、行政書士法、土地家屋調査士法、社会保険労務士法、不動産の鑑定評価に関する法律、宅地建物取引業法(e-Gov法令検索)、
最高裁判所「令和5年司法統計年報(家事編)」、国税庁「令和5年分 相続税の申告事績の概要」、法務省・法務局、法テラス、東京弁護士会、裁判所の公開情報をもとに作成しています。割合の一部は筆者が計算したものです。制度や費用は変更される場合があります。個別の事案については弁護士・税理士・司法書士等の専門家にご確認ください。


冨田隼平

WRITER冨田 隼平
不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士ほか
大手信託銀行にて不動産売買仲介、その後業界最大手の鑑定会社にて不動産鑑定評価業務に従事。
現在は独立し、鑑定士として価格調査・鑑定評価・コンサルティングを提供するほか、エージェントとして売買・賃貸のサポートなども行っています。

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