不動産売却前にリフォームは必要?しないほうがいい理由と例外を鑑定士が解説

皆さんは、⁠家を売りに出す前に、「リフォームしたほうが高く売れるのでは?」と考えたことはありませんか?なんとなく、「古いままより、きれいにしたほうが印象も良いはず。」くらいで考えていませんか?その気持ちはよく分かります。色あせた壁紙の家より、新しくなった家のほうが、誰が見ても魅力的に映りますから。ただ実はこの「売却前リフォーム」、かけた費用がそのまま売却価格に上乗せされるとは限らず、やり方によっては手取りが減ってしまうこともあるんです。今日は、⁠リフォームすべきかどうかの判断基準を、データと制度の両面から整理していきます。

改装中の住宅の室内

結論:売却前のフルリフォームは「原則おすすめしない」

リフォーム費用が価格に上乗せされにくい理由 

不動産鑑定評価基準では、原価法を「価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って試算価格を求める手法」と定めています。そして、⁠減価の要因を、物理的要因、機能的要因、経済的要因の3つに分けています。リフォームで改善できるのは、主に前の2つです。傷んだ部分を直せば物理的な減価が、古い設備を新しくすれば機能的な減価が、それぞれ和らぎます。一方、⁠近隣地域の衰退のような経済的要因は、工事では変えられません。

さらに、⁠実際の売買価格は、積算価格だけで決まるわけではありません。買主の需要や、⁠近隣の取引事例(リフォームの有無は分かっても、どの程度の費用をかけたかは分かりづらい)など、市場の評価が反映されます。つまり、⁠「100万円かけたら価格が100万円上がる」という関係は成り立ちにくいのです。もちろん、⁠物件や市況によって結果は変わります。ただ、⁠少なくとも「かけた分は回収できる」と考えて工事をするのは、危険だと言えます。

買主は購入後にリフォームする人が多い(国交省調査)

国土交通省の令和6年度住宅市場動向調査(三大都市圏)によると、既存(中古)戸建住宅を取得した世帯のうち、購入後に自分でリフォームをした(1年以内の予定を含む)のは43.0%でした。購入の前後でリフォームが行われたのは69.4%で、「リフォームなし」は30.6%です。内訳を見ると、⁠売主によるリフォームのみが28.0%、売主と購入後の両方が20.3%、購入後のみが21.1%でした。

既存戸建住宅の購入前後のリフォーム実施状況

ここで読み取れるのは、2点です。一つは、⁠売主がリフォームした物件でも、買主がさらに購入後に手を入れるケースが20.3%もあること。買主の好みは人それぞれで、売主が先に直しても、追加工事がなくなるとは限りません。もう一つは、⁠売主によるリフォームの中には、買取再販など事業者が売主となる物件も含まれる点です。同じ調査で、⁠既存戸建の購入形態は、事業者が売主のものが、仲介ありで29.4%、仲介なしで8.5%を占めています。個人の売主が売却前にリフォームするケースの割合までは、この調査からは分かりません。

買主が既存戸建を選んだ理由(複数回答)も、参考になります。最も多いのは「予算的にみて既存住宅が手頃だったから」で、71.0%でした。そのうえで、⁠「外装、内装、水回り等がリフォームされており、きれいだったから」が27.6%、「リフォームによって快適に住めると思ったから」が23.5%と、きれいな状態を評価する人と、自分で手を入れる前提の人が、どちらも一定数います。つまり、⁠買主の多くは価格を重視していて、リフォーム済みを好む層と、改修を前提にする層に分かれているわけです。

築年数の面でも、⁠購入前後にリフォームが行われた割合は、築10年以内の物件で4割以上、築11年以上の物件で5割以上と、築年数が上がるほど高くなっています。

工事期間中の機会損失と、売主責任が増えるリスク

お金の面以外にも、⁠注意点があります。まず、⁠工事の期間中は、売り出しができません。その間も、⁠固定資産税や管理の手間はかかり続けます。そして、⁠リフォームをした部分について、工事の不具合が後から見つかれば、売主が責任を問われる可能性があります。契約の内容や工事の中身によって扱いは変わりますが、手を入れる箇所が増えるほど、売主が説明すべき範囲も広がると考えておいたほうがよいでしょう。

それでも「やったほうがいい」ケースと、やるべき範囲

安全・機能に関わる不具合は、直すか告知する

雨漏り、⁠給排水管からの水漏れ、給湯器の故障など、生活に直結する不具合は、放置したまま売るとトラブルの元になります。民法572条は、⁠契約不適合責任を負わない特約をしても、知りながら告げなかった事実については責任を免れないと定めています。つまり、⁠知っている不具合を黙って売ることはできません。選択肢は2つです。直してから売るか、⁠不具合の内容を正確に伝えたうえで、現状のまま価格で調整するか。修繕費が大きくなりそうなら、後者のほうが合理的な場合もあります。

費用対効果が出やすい「軽い手入れ」

大がかりな工事の代わりに、費用が小さく、印象を改善しやすい手入れなら、検討する価値があります。たとえば、⁠ハウスクリーニング、残置物の撤去、庭の草木の手入れ、傷みが目立つ箇所の部分補修などです。こうした手入れは行ったとしても数十万円ほどで済み、内覧時の第一印象を整えられます。大がかりな工事より、投資に対する見返りは読みやすいはずです。もちろん、⁠物件の状態によって優先順位は変わりますので、仲介会社の担当者に、内覧で気になる点を率直に聞いてみるとよいでしょう。

ホームステージングという選択肢

工事をしない方法として、家具や小物を配置して、暮らしのイメージを伝える「ホームステージング」もあります。リフォームと違い、⁠元に戻しやすいのが利点です。効果や費用、⁠注意点は、過去の記事(不動産のホームステージングとは?効果・費用・AIの注意点)で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

リフォームしない場合の選択肢:
現状渡し・インスペクション・買取

現状渡しと契約不適合責任の考え方

リフォームをせずに売る場合、気になるのが契約不適合責任です。民法562条は、⁠引き渡された目的物が契約の内容に適合しないときに、買主が売主に補修などを請求できると定めています。通知期間は、⁠買主が不適合を知った時から1年以内です(民法566条)。ただし、⁠売主が個人の場合、特約で通知期間を短くしたり、責任を免除したりすることが可能です。もっとも、⁠先ほどのとおり、知っていて告げなかった不具合には免責が及びません(民法572条)。

売主が宅建業者の場合は、ルールが違います。宅建業法40条により、引渡しから2年以上とする特約を除き、民法より買主に不利な特約はできません。買取再販の物件が、⁠個人の売主の物件より、買主にとって手厚い保護があるのは、このためです。

インスペクション・瑕疵保険で、買主の不安を減らす

工事の代わりに、⁠建物の状態を「見える化」する方法もあります。それが、⁠建物状況調査(インスペクション)です。宅建業法34条の2は、既存の建物の売買の媒介契約を結ぶ際に、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を、書面に記載するよう定めています。調査の対象は、⁠構造耐力上主要な部分と、雨水の浸入を防止する部分です。調査結果が重要事項説明の対象になるのは、調査の実施から1年以内(RC造などの共同住宅等は2年以内)のものです(宅建業法施行規則16条の2の2)。なお、⁠標準媒介契約約款には、調査は瑕疵の有無を判定するものではないことも明記されています。

実際の利用状況を見ると、同じ国交省の調査で、既存戸建の取得世帯のうち、インスペクションを実施した(売主が実施、または自身で依頼)のは15.5%にとどまります。インスペクションを「知っている(内容含めて)」「名前だけは知っている」と答えた世帯は、合わせて41.2%でした。認知は広がりつつあるものの、実施はまだ少ない分、実施しておけば、差別化になる可能性があります。

さらに、⁠既存住宅売買瑕疵保険(個人間売買タイプ)に加入できれば、構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分などの隠れた瑕疵について、保険期間5年または1年で補修費用が保険金でまかなわれます(住宅瑕疵担保責任保険協会)。買主にとっては、⁠昭和56年以前に建てられた物件でも、保険の付保証明書で耐震性の要件を満たせば、住宅ローン減税の対象になるという利点もあります(国土交通省Q&A)。

買取という「出口」

とにかく早く、⁠確実に売りたい場合は、不動産会社による買取も選択肢です。買取なら、⁠売却前のリフォームは不要で、売却の時期も読みやすくなります。ただし、⁠一般には、市場で売る場合より、価格は低めになる傾向があるといわれています。仲介で売るのか、⁠買取で売るのか、迷ったときは、複数社の査定を取り、価格と手間、スピードを比べて判断しましょう。

売却前の選択肢の比較表

税金・特例の注意点

売却前のリフォーム費用は、税金を減らしてくれるのか

「リフォーム費用は、売却の税金から引けるのでは?」という疑問もよく聞きます。国税庁によると、⁠譲渡所得は、売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。譲渡費用は、⁠土地や建物を売るために直接かかった費用で、仲介手数料、売主が負担した印紙税、立退料、建物の取壊し費用などです。一方、⁠修繕費など、資産の維持や管理のためにかかった費用は、譲渡費用になりません(国税庁タックスアンサーNo.3255)。

取得費の側には、⁠購入代金などに加えて、その後に支出した改良費や設備費が含まれます。ただし、⁠建物の取得費は、購入代金などから所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します(No.3252)。ですので、⁠価値を高める改良工事の一部は、取得費に加算できる可能性がありますが、単なる修繕は、対象外と考えておくのが無難です。どちらに当たるかは、工事の内容によって変わるため、税理士や税務署に確認してください。

仮に、⁠100万円が取得費に加算できたとしても、税金の減り方には限りがあります。所有期間が5年を超える長期譲渡の場合、税率は所得税15%・住民税5%(ほかに復興特別所得税)で、合計20.315%です。つまり、⁠減る税金は、最大でも約20万円(100万円×20.315%)です。所有期間が5年以下の短期譲渡なら、所得税30%・住民税9%(復興特別所得税を加えて39.63%)です。いずれにしても、⁠譲渡益が出ていなければ、そもそも税金が減る余地がありません。

「税金が戻るから、⁠リフォームしても損しない」とは言えないのです。なお、⁠取得費が分からない場合や、実際の取得費が譲渡価額の5%を下回る場合は、譲渡価額の5%を取得費にできます(概算取得費)。リフォームを行ったときは、後で確認できるよう、契約書や領収書を保管しておきましょう。

売却前リフォーム費用の税務上の扱い

空き家の3,000万円特別控除と、買主による耐震改修等

相続した空き家を売る場合は、特例の使い方で、リフォームの要否が変わります。国税庁(No.3306)によると、一定の要件を満たす被相続人居住用家屋(昭和56年5月31日以前に建築、区分所有でない、など)やその敷地を売った場合は、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(令和9年12月31日までの譲渡。相続人が3人以上の場合は2,000万円まで)。売却は、⁠相続の開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までで、売却代金は1億円以下であることも必要です。

ポイントは、⁠耐震性の満たし方です。従来は、⁠売主が譲渡の時までに耐震基準を満たすか、家屋を取り壊して敷地を売る必要がありました。令和6年1月1日以後の譲渡からは、譲渡の時から、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、買主が耐震基準を満たす工事、または家屋の全部の取壊しを行う場合も、対象になりました。つまり、⁠旧耐震の相続空き家は、売主が高額な耐震リフォームを先に行わなくても、特例を使える可能性があります。

ただし、⁠適用には、確定申告で、市区町村が交付する「被相続人居住用家屋等確認書」や、売買契約書の写しなどの書類が必要です。売主側で耐震基準を満たす場合は、譲渡の日前2年以内に調査が終了した耐震基準適合証明書などが求められます。細かな要件や手続きがありますので、必ず事前に税務署や税理士に確認してください。

あなたはどうする?判断のチェックポイント

ここまでの内容を、⁠判断の順番に整理します。

  • 建物の状態:雨漏りや水漏れなど、安全・機能に関わる不具合はないか
          あれば、⁠直すか、正確に告知する
  • 想定する買主:自分で住む個人か、改修前提の投資家・事業者か
  • 売却の期限:相続した空き家の特例の期限など、動かせない日程はないか
  • 使える資金:工事費を先に出せるか、回収できなくても問題ないか

この4点を踏まえて、「現状渡し」「軽い手入れ」「インスペクション・瑕疵保険」「買取」のどれが合うかを選びます。迷ったら、⁠工事の契約を結ぶ前に、「リフォームする場合」と「しない場合」の両方の売却見込みを、複数の不動産会社に聞いてみてください。工事を決めてからでは、後戻りできません。

まとめ

リフォームの前に、「しない」選択肢を比べる

売却前のフルリフォームは、費用が価格に上乗せされにくく、工事期間の機会損失や売主責任の増加も伴うため、原則はおすすめしません。ただし、⁠雨漏りなど安全・機能に関わる不具合は、直すか、正確に告知する必要があります。軽い手入れやインスペクション、買取、税の特例も含めて比べると、手取りを守れる選択肢が見えてきます。あなたの家は、⁠リフォームしなくても売れる状態でしょうか。まずは、⁠複数社の査定で、現状のままの評価を聞いてみてはいかがでしょうか。

※本記事の内容は、⁠不動産鑑定評価基準(国土交通省)、国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査」、
民法・宅地建物取引業法・同施行規則、国税庁タックスアンサー(No.3202・3252・3255・3306ほか)、住宅瑕疵担保責任保険協会、国土交通省の住宅ローン減税Q&Aをもとに作成しています。制度は変更される場合があります。個別の事案については、税理士・宅建業者等の専門家にご確認ください。


冨田隼平

WRITER冨田 隼平
不動産鑑定士・宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士ほか
大手信託銀行にて不動産売買仲介、その後業界最大手の鑑定会社にて不動産鑑定評価業務に従事。
現在は独立し、鑑定士として価格調査・鑑定評価・コンサルティングを提供するほか、エージェントとして売買・賃貸のサポートなども行っています。

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